↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/27

第1話 ラーメン屋、失業する

「へいらっしゃい! まずは入口の券売機で食券を買ってくれ!」

 金髪のソフトリーゼントが鉢巻の上から突き出している、ヤンキー然とした見た目の店主が声をかけてくる。


 VRMMO内とは思えないこの空間の名前は、「ラーメン流星」という。


 ()和風テイストを売りにしたVRMMO「夕霧(ゆうぎり)オンライン」でその名前を知らない者はいない名店である。


 店主である尾白(おじろ)流星(りゅうせい)の朝は早い。

 なにせ現実でもラーメン屋に勤めているからだ。

 といっても現実では、チェーン店「海岡屋(うみおかや)」の早番の店員に過ぎない。朝5時から海岡屋でスープを仕込み、麺を仕込んだ後は、午前10時の開店以降、ランチタイムの混雑を過ぎるまで厨房を担当し、15時に遅番の店員に引継ぎをして帰宅する。

 帰宅後は「夕霧オンライン」にログインし18時から21時までゲームをする。

 夕霧オンラインユーザーからは、「ラーメン流星」がオープンしている18時から19時半までが、ゴールデン(ラーメン)タイムと呼ばれている。いかにこの時間にログインできるかが、夕霧オンラインの攻略に影響するのだ。


****


 さて、話は3か月前にさかのぼる。


 鋭い目、細い眉、茶髪のソフトリーゼント、と見た目はヤンキーながら、実態はラーメンに青春の全てを捧げてきた熱血漢、尾白流星。いつか自分の店を持ち、すべての日本人を満足させる至高のラーメンを提供することを目標としている。

 そのために、いくつかのラーメン屋を回って修行をしている。


 流星の父は、こってり系デカ盛りチャーシューもやしウルトラMAX盛りで有名なラーメン尾白(おじろ)の開祖、尾白悟郎(おじろごろう)である。

 流星は父からラーメン作りの才能を引き継いではいるものの、実家で修行することはなかった。といっても、父と折り合いが悪いなどの深い理由があるわけではない。

 単にラーメン性の違いである。


 流星は、あっさり派だったのだ。


 独り立ちして独自のラーメン道を究めるため、貯金をしつつ様々なラーメン屋で修行をする日々を送る流星だったが、まだまだ先は長い。

 そんなある日、現在のバイト先である「ムカ着火ボルケーノ」の店主、日隈(ひぐま)喜朗(よしろう)がこう宣言し、流星はあっさり失業した。


「最近、(いき)タピオカってのが流行っているらしいじゃねぇか。ちょっと俺もインド行って狩ってくるわ」


 日隈はインドでヨガとラーメンの修行をしたと(うそぶ)く自称本格派である。

 インドにラーメンはないだろ、と常連は全員思っているが、誰も指摘したことはない。

 日隈は名前の通りの熊のような大男であり、人を襲ったヒグマを素手で殺したともっぱらの噂である。共食いかな?

 その見た目とエピソードにより、善良な市民たる常連の皆さまは怖くて指摘できないのだ。


 ヒグマは山で出会ったら死を覚悟する生き物であり、銃を持っていてもケンカを売ってはいけない。素手で戦って生還したのは、ひとえにインドで究めたとされるヨガのおかげであろう。ヨガすげぇ。


 ちなみに、(いき)タピオカというのは、最近食用として人気のある生物である。

 成体は最大3メートルほどになる茶色の球状の生物で、血液の代わりにミルクティーが流れているという謎生物である。幼体は数ミリであり、その独特の触感が好まれて近年乱獲されている。インドやオーストラリアに多く生息しているとされる。

 ミルクティーに投入されることが多く、ラーメンとは無関係に思える。


 流星は聞いた。

「生タピオカってラーメン関係なくないですか」

「あぁ? やべぇ生き物がいたら戦ってみてぇじゃねぇか」


 戦闘狂なだけだった。

 ヨガを究めたせいだろうか。


 ムカ着火ボルケーノは日隈と流星の二人で回している、4席だけの小さなラーメン屋である。インド修行の話はともかく、ラーメンのセンスに惚れて、流星が頼み込んでアルバイトをさせてもらっていた。

 日隈がいなくなったら店は閉めるしかない。


 仕方なしに、近くでラーメン屋のアルバイト先を探す流星。

 タイミングが良いことに、1か月後に世界的なチェーン店「海岡屋」がオープンするらしい。面接をあっさり突破した流星は、オープニングスタッフとして参加することになった。

 アルバイトが開始する2週間後までの間、流星は自宅でラーメンの研究をすることにした。海岡屋はとんこつスープがウリである。ただ、借家でとんこつを煮込んだりするのは、大家にも近所にも迷惑である。


 何とかならないものか。

 ふと、ムカ着火ボルケーノ常連の男性が言っていたことを思いだした。


「ぶふ。最近のVRMMOはすげぇよな、ぶふ、味覚まで再現されてんだもんな。ぶふ」

 鼻息荒く語っていた男性の言葉が本当であれば、VRMMOでラーメン屋の修行ができるのではないか。


 さっそくインターネットで検索した流星。

「VRMMO ラーメン で検索っと。おっ。『夕霧オンライン。準和風テイストで、最初の街で遭遇するモンスターからのドロップ品が、ラーメンの具材としか思えない。開発者がラーメンに狂っていたに違いない』とあるな」


 この出会いが夕霧オンラインユーザーのラーメン観を変えていくことになるとは、この時はまだ誰も知る由もなかった。


 夕霧オンラインはもうすぐ3年を迎える、中堅どころのVRMMOである。西洋ファンタジーの作品が多い中、準和風を謳い、一定の人気を博している。純和風ではなく準和風なのは、エルフなどの人気がある西洋風の種族を出しているためらしい。

 もうすぐ3年ということもあり、後発組がある程度追いつけるような新規ユーザー向けキャンペーンを実施中だ。


 さっそくVR機にゲームをダウンロードし、夕霧オンラインを始めた流星。

 まずはキャラクターメイクである。


 名前はそのまま、「流星」を採用。

 種族選択。エルフやドワーフといった西洋ファンタジー的な種族を選ぶこともできるし、妖狐や小豆洗い、果ては一反木綿といった和風の妖の類を選択することもできる。

 流星はラーメンを作りたいだけであり、味覚に影響が出ても困るので、無難に人間を採用した。

 冷やし中華なる謎種族も選択肢にあって、若干心惹かれたのは内緒である。


 見た目。現実そのままに髪の色を金髪に変更する。

 ソフトリーゼントが金髪になり、鋭い目、細い眉、どこからどう見てもヤンキーである。


 さて、職業選択である。

 準和風をうたっているだけあり、最初の職業には、侍、忍者、手妻師(他のVRMMOで言うと魔法使いなどに相当する)、などがある。

 流星の選ぶ職業はもちろん、料理人である。


 さらに、全身をスキャンさせ、手のタコなどをキャラクターに反映して、現実の経験をステータスに反映する。この工程は新規ユーザー歓迎キャンペーンの一つであり、後発組が追い付けるよう、現実でなじみがあると思われる技能(他のVRMMOではスキルと呼ばれるもの)を一つプレゼントされるのだ。


 一通りのキャラメイクは終わった。さあ、冒険(ラーメンづくり)の始まりだ。


 料理人の初期装備は、包丁、エプロン、寸胴鍋である。

 現在の流星のステータスをご覧いただこう。

------

 人物名 流星

 性別 男

 種族 人間

 職業 料理人 Lv. 1 / 20


 体力(HP) 10/10

 魔力(MP) 10/10


 攻撃力 11(+1)

 防御力 9(+2)

 瞬発力 11

 魔法攻撃力 9

 魔法防御力 9

 技術力 11


 装備

 頭:なし

 武器:包丁(攻撃力+1)

 盾:寸胴鍋(防御力+1)

 胴:エプロン(防御力+1)

 手:なし

 足:なし

 装身具:なし


 技能

 包丁格闘術Lv. 1(装備を変更した際は短剣格闘術に変換可能)

 寸胴鍋防御術Lv. 1(装備を変更した際は盾防御術に変換可能)

 ラーメン作成術 Lv. 3


 所持金

 5000イェン

----


 流星は驚愕した。

「寸胴鍋って盾なのかよ!」


 何はともあれ、ここから流星の伝説(ラーメン屋)は始まるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] テンポよく読みやすく、クスリとくるポイントが散りばめられ、とても面白く拝読いたしました。続きを読み進めてまいります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。