第七話 迷路以上、迷宮未満
「自分たちのレベルと相談って言われても、どうすりゃいいんだよ? 」
「私に言わないでよね。ルクスったら、あれから寝たまんまなんだから。」
「ちっ、使えねぇの。」
ヴァンがぼやいている相手が、自分ではない事は分かっているつもりなのだが、シエルとしては納得いかない。ルクスが中に居るのだからと、ヴァンがいちいちシエルの方を向いて言うからだ。
「ねぇ、ところで此処、何処? 」
マリクが不安そうに声を挙げた。
「そう言えば獣兵衛さんが、この辺りは迷い易いから気をつけるように言ってたじゃない。地図はどうしたの? 」
シエルに言われてマリクは地図を見直したが分からない。
「どうしよう… 載ってない。」
「じゃ、戻ればいいじゃん。」
「どうやって!? 」
「そりゃ、元来た道を… 道が無いぃ!? 」
シエルは二人の押し問答に呆れていた。
『アレアレ? 迷子かなぁ、迷子かなぁ? 』
『放っとけ放っとけ。』
シエルが声のした方を見ると小さな妖精らしき者が会話をしていた。
『あの女の子、こっちを見てるよ? 』
『気のせい気のせい。人間に見える訳無い。』
『でも、懐かしい匂いする。あっちの男の子は剣士の匂い。こっちの男の子は魔法使いの匂い。アレアレ? この女の子、聖女と弓使いと… ルクスの匂いがするっ! 』
『なにぃ!? 』
ルクスと聞いて驚いた妖精の方へシエルが近づいた。
「ごちゃごちゃ、うるさいんだけど。どうせなら、放っておかないで助けて貰えるかなぁ? 」
「どうしたの、シエル? 」
「頭でも、ぶつけたかぁ? 」
マリクは目を細めたりして様子をうかがっているが、ヴァンには、全く見えていないようだ。
『どうやら、まともに認識してるのは、シエルって言ったか。お前だけみたいだな。ついて来い。』
「えっ? 」
『ルクスの次にウェントゥス様の試練を受けに来たんだろ? 』
『うゎ~ぃ、久々の試練、試練! 』
これは拙い事になったとシエルは思った。ルクスの時は獣兵衛という助っ人が居た。それでもレベルシンクが発動するために、やっとクリア出来た有り様だ。それから、大して日数も経っていなければ、レベルも上がっていない。
「あのぉ、また次回って事はぁ… ? 」
『いいけど… ウェントゥス様、気紛れだから、次、いつ出ていらっしゃるか、分からないよ? 』
それはそれで困る。1、2年くらいなら後回しに出来るかもしれない。だが、10年、20年先になってしまったら、先に誰かが魔王を倒してしまうかもしれない。それなら、まだマシな方で先に世界が滅んでしまったら本末転倒、目も当てられない。
「一応、お尋ねしますがウェントゥス様の試練を受ける適正レベルは、いかほどでしょうか? 」
『レベル? 最低でレベル15、17あれば普通。20あったら楽勝で、それ以上はレベルシンクの対象だよ。』
最早、シードで補えるレベル差ではなかった。しかし、次を待つのも、このまま挑むのも、どちらもリスキーとしか思えなかった。
「何、さっきから1人でゴチャゴチャ言ってんだよ? 」
やはりヴァンには、見えていないらしい。
「うるさいわね。こっちは最低レベル15の試練に挑むか、何年先になるか分からない次を待つか悩んでんのよっ! 」
「ん? レベル15は無理ゲーだけど、何年先か分からないってのもヤバいよな。で、試練って失敗したら、どうなるんだ? 」
それはシエルも考えていなかった。
「あの… 」
『あ、そっちの話しは聞こえてるから。他の試練は知らないけど、ウェントゥス様の試練は、アイテムとMPは全員が倒れた時点のまま。HP1、所持金半額で帰ってくるよ。』
シエルは妖精の言葉を二人に、そのまま伝えた。
「それなら、ダメ元で突っ込もうぜ。どうせ、さっきの町で、買い物しまくって残金そんな無いんだし。」
二人には、そう言ってあるが、ヴァンに無駄遣いをさせない為であり、いざと云う時の為にシエルはヘソクっていた。だが、それをここでバラす訳にもいかない。
「し、仕方ないわね。死なないんなら、ダメ元よね。」
『じゃ、試練挑戦決定~って事で。ちゃんと、ついてきてね。迷子になると永久ループだから。』
「ちょっと、待ってよ。」
妖精の後をシエルが追い、妖精の見えないヴァンとマリクが、その後を追いかけた。迷路のような森を抜けると、いつのまにか建物の中に出た。辺りを見回すが他の二人の気配が無い。
「えっ、はぐれたぁ!? 」
さすがは三つ子。離れ離れになっても異口同音、同時に声をあげた。
『大丈夫大丈夫。皆、建物の中に居るよ。真ん中の部屋でウェントゥス様は待ってるから。辿り着いたメンバーでチャレンジしてね。』
「辿り着けなかったら!? 」
『お外で待っててもらいま~す。それじゃ、頑張ってねぇ。』
妖精は姿を消した。こうなれば前に進むしかない。
「まったく。ちゃんと自分たちのレベルと相談するよう言ったろ? 」
シエルの頭の中でルクスの声がした。
「それなら道に迷う前に言ってよねっ! 」
「だって寝てたもん。それに保護者じゃないんだしね。取り敢えず、最短距離でウェントゥスの所に行くよ。」
「えっ、な… 」
シエルの足が勝手に建物の真ん中の部屋へと歩き出した。