第四十三話 最後の試練
大精霊たちにも扉が開かれた。
『どう考えても、一番キツい試練って事よね? 』
ルクスの問いにブレンの声は返ってこなかった。別々の扉から入ってきた子供たちを見つけると、それぞれ、宿主の中へと戻っていった。子供たちは気づいていないが大精霊たちは、これまでと違う感覚にとらわれていた。
『ちょっと会わなかった間に、随分と頼もしくなっちゃったわね? 』
「え? 」
ルクスにいきなり言われてもシエルには実感がなかった。
『論より証拠ですよ。眼鏡、着けてごらんなさい。』
テラに促されてシエルは眼鏡を掛けてみた。
「えええええええええっ! 」
シエルの異様な驚き方にヴァンとマリクも驚いた。
「どうしたの、シエル? 」
「テラ、もう少し待って欲しかったな。」
マリクの質問にシエルが答える前にブレンの声が割って入ってきた。
『あら、ごめんなさい。でも、この階はレベルシンク外すんでしょ? この子たちだって気づきますよ。』
ヴァンとマリクには何の話しか分からなかった。そして訊こうとしたところで塔全体が急に揺れ初めた。
「な、なんだ!? 地震か? 」
『いいえ、地震ではないわね。』
ヴァンの問いにテラが答えた。大地の大精霊が言うのだから間違いない。やがて、建物の壁を破って巨大な魔物が現れた。それはマグマイーターよりもかなりの巨体。ウルツァイト坑でブルハがテネブラエと倒したマントルイーターよりも、もっと強大な魔物だった。思わずマリクが後退る。ヴァンが怖いもの知らずなのは、いつも通りだが今回はシエルも恐れている様子はなかった。
「こいつはグランドイーター。イーター系最強の魔物じゃ。最後の試練は、此奴の討伐だ。」
「ちょっと待ったぁっ! 」
討伐と聞いてヴァンが叫んだ。
「まだ、炎の剣と大地の盾も見つかってねぇぞ。武器も無しに討伐って、どうすりゃいいんだよ? 六大精霊の装備なんて本当に在るのか? 」
言われてみればシエルもマリクも、六大精霊の装備などと云うものを手にしてはいない。
「そう言えばそうね。最終戦の前に手に入るのが普通よね? 」
「そうだったな。六大精霊の装備はグランドイーターの中じゃ。何処に何が在るか、本来は内緒なのじゃが… 取り敢えず炎の剣は右腕の中じゃ。後は自分たちで探すがよい。これも試練じゃ。」
そしてブレンの声は聞こえなくなった。
「ねぇ、六大精霊の装備って、そんな柔じゃないわよね? 」
『そうね。あなたが考えてる事くらいじゃ壊れないわよ。』
シエルの問いにルクスが答えた。それを聞いてシエルが前に出た。
「ちょっと魔力使うから、暫く回復出来ないからね。あんたたち、大怪我すんじゃないわよっ! 閃光砲撃っ! 」
それは、かつてブルハがキャットリオンを倒した時に見せた光の攻撃魔法だった。ルクスを宿しているシエルの方が威力は大きく見えたが、グランドイーターの腕一本、吹き飛ばすにも至らない。それでも宝箱一つが飛び出してきた。
「熱っ!? 」
急いで開けよう触れたヴァンが慌てた。
『ったく。俺の力を右手に集めな。』
フラムマの言うとおりにすると、今度は難なく開ける事が出来た。そこに収められていたのは燃えたぎる炎の塊。
「えっ!? 」
マリクには炎しか見えていなかったが、フラムマを宿したヴァンには見えていた。その炎の中に手を入れると一振の剣を取り出した。
「す、凄ぇっ! 」
『わかるか? 』
嬉しそうにフラムマが声をかけた。
「なんか、凄ぇ力が湧いてくる感じだ。」
『そうか。だが、その力に呑まれるな。呑み込んでしまえ。』
「力を… 呑み込む? 」
『そうだ。そうすれば、お前は今よりもっと強くなる。』
「今よりもっと? 」
『それが限界突破だ。』
「限界突破… なんだか、わかんねぇけど、強そうだ。」
そもそもヴァンは物事を理屈で捉えるタイプではないし、フラムマは物事を理屈で教えるのが得意なタイプでもない。だから、感覚さえ通じていれはよかった。
「爆焔撃っ! 」
前置きも無しにヴァンはいきなり放った。
「ちょっ、ちょっと。いきなり撃つからびっくりしたでしょ!? 」
シエルに怒られても、あまり気にした様子もない。いつもの事だから。ヴァンの一撃はグランドイーターの左腕を吹っ飛ばした。シエルとの差は大精霊の装備の有無である。だが、出て来た宝箱の中では激しく風が渦を巻いていた。明らかにウェントゥスの装備。つまり、それを宿すマリクの装備である。マリクが渦巻く風の中から取り出したのは翼の生えた靴だった。
『なるほど、そうきたか。』
六大精霊の装備はブレンも言っていた通り、その精霊を誰が宿したかで装備は変わる。つまり、手にするまでは大精霊自身も、どんな装備になるか分からないのだ。
『この靴を履いていれば、そうそう敵の攻撃に当たる事はない。これは、闇の装備が出るまで宝箱収集かな。』
ウェントゥスは軽く言うが、そう容易ではない。だが、シエルの閃光砲撃やヴァンの爆焔撃のようにグランドイーターを部位破壊する術が無くては、そうせざるをえなかった。




