第四十二話 第四の試練
部屋は別々であったが、子供たちの予想通りマグマイーターが待ち構えていた。
「はぁ。やっぱり、そうなるわよね。」
その姿を眺めながらシエルは溜め息を吐いた。シエルは母である聖女マリアから受け継いだ治癒能力はある。だが、ルクスもアクアも居ない今、どう対処すべきか悩んでいた。
「で、こいつをどうすればいいの? 捕獲? 退治? 」
「逃げよ。」
「はぁ? ここまで来て逃げろって言うの? 」
ブレンの声にシエルは呆れた。
「いや、そうではない。一定時間、逃げ切れと云う事だ。範囲はこの部屋の中だ。」
「あぁ、そうゆう事。どうせ終わり時間は教えてくれないんでしょ? まぁ教わったところで時間の分かるような物も無いしね。いいわよ、逃げ切ってみせるから。」
マグマイーターは俊敏ではないが、巨体だ。ジリジリとシエルを部屋の隅へと追い詰めて行く。そして大きく口から息を吸い込み始めた。灼熱の炎を吐き出す前兆である。
「洒落んなんないわよっ! 」
シエルは桜色のスリングショットを構えると、その口の中にアクアの力を込めてあった魔弾を打ち込んだ。次の瞬間、マグマイーターが大爆発を起こして粉々に砕け散ってしまった。シエルにも何が起きたか分からなかった。単純にマグマイーターの体内のマグマとアクアの力が水蒸気爆発を招いたのだが、シエルにそんな知識は無い。
「ど、ど、ど、どんなものよ。」
シエルは立ち上がると最後の扉へと向かった。マリクもまた、攻略方法を掴みかねていた。すると突然の既視感におそわれた。
「おやおや、お困りですかな? 」
今まで何の気配もしなかったのに、急に声を掛けられてマリクはびっくりした。そこには黒猫の頭をした人のような者が立っていた。
「これは驚かせてしまって申し訳ありません。御無沙汰しております。闇の大精霊テネブラエの執事でシュヴァルツでございます。」
「御無沙汰しております。ノアールでございます。」
メイド服に身を包まれた女性は、頭からは長い兎の耳を生やしていた。
「ひ、久しぶり… 何て言ってる場合じゃないんだ。邪魔しないでくれるかな? 」
するとシュヴァルツはマリクにに向かって首を傾げた。
「はて? お手伝いに伺ったのですが、お邪魔でしたか。それでは失礼を… 」
「ちょっと待ってっ! 」
「なんでございますか? 」
「手伝ってもらっていいの? 」
「マリク様は元々、闇の試練を終わられれば、我等が主テネブラエ様の宿主になられるお方ですし、我々二人は人数に含まれておりません。そもそも、我等の侵入をブレン様もお止めにならなかったのは問題無い証かと存じます。」
神出鬼没の闇の眷属の言うこと。屁理屈なのかもしれない。だが、マリクには他に方法が見つからなかった。
「どうしたらいいの? 僕はどやったら、この試練を越えられる? 」
「さすが、あのお方の御子息。我々に何とかして欲しいとは仰らず、どうすればよいかを御尋ねになられる。もし、我々に委ねようとなされたら、我が主から、何もせずに戻るよう仰せつかって参ったのですが、よろしいでしょう。ノアール、あれを。」
シュヴァルツに促されてノアールはマリクに一本の矢を差し出した。
「こちらは鏃にテネブラエ様の魔力を込めた矢となっております。一本しかございませんので、慎重にお使いください。そのリストボウの威力では貫通は難しいと存じます。なるべく体内に達するようお使いくださいませ。」
「ありがとう。テネブラエにもお礼を言っといて。」
「はい。では、これにて失礼をば。」
シュヴァルツとノアールはマリクに一礼をして消えていった。そしてマグマイーターがマリクを睨み付けた瞬間、マリクの放った矢がマグマイーターの眼球を捕らえた。マグマイーターの体内で炸裂したテネブラエの魔力は小さな闇の塊となって内側からマグマイーターを飲み込むようにして消えていった。
「や… やった。」
マリクがへとへとになりながら音のした方を見やると、次の扉が開かれていた。どうやらシュヴァルツたちの手助けはセーフだったらしい。実際、直接手を出した訳でもない。残るヴァンには気になっている事があった。次に爆焔撃を使えばウルツァイトの剣はもたないと云うことだ。まだ、この塔の中に在るという炎の剣と大地の盾も見つかっていない。
「本当に六大精霊の装備なんて在るのかよ? 」
ぼやいてみてもマグマイーターが止まってくれる訳ではない。そしてシエルやマリク同様に部屋の隅へと追いやられると、ヴァンに残された手段はもう、一つだけしか残されていなかった。
「こうなりゃ、やけくそだ。爆焔撃っ! 」
ヴァンの渾身の力を込めた爆焔撃はものの見事にマグマイーターを粉々に打ち砕いた。と同時にウルツァイトの剛剣もまた、粉々に砕け散ってしまった。
「くっそ。武器も無ぇのにどうしろってんだよ? 」
仕方なく現れた扉にヴァンも入っていった。
「どうやら、三人とも、第四の試練を乗り越えたようじゃ。大精霊たちよ、出番じゃぞ。今一度、子供たちと力を合わせて最後の試練に挑むがよい。」




