第四十一話 三つ目の試練
「大精霊だけに試練を課しても意味は無かろうが。」
テラとアクアの前にブレンが姿を見せた。
『そうなの? 』
「まぁ、大精霊だけで試練の扉に入った事など過去に無いのだから無理もないか。じやが出番が終わった訳ではないからな。その時まで休んでなされ。」
そう言うとブレンは再び姿を消した。
「なんだ、こいつ? 」
ヴァンとフラムマを待ち受けていたのはジュエルイーターなのだが、ウルツァイトの採掘坑で見かけたものとは色が異なる。
「こいつはダイヤモンドイーター。ジュエルイーターの亜種の中でも稀少種じゃ。今回の試練は二匹のダイヤモンドイーターを別々の檻に同時に入れる事。ちなみに、ダイヤモンドイーターは火に弱く触れるとすぐに燃えてしまう。そのくせ、火を見ると突っ込んでいく性質がある。まぁ、だから個体数が増えんのだがね。」
「稀少って言ったって魔物だろ? それより何だよ、その性質とお題は。フラムマ宿した俺への嫌がらせか? 」
「たまたまじゃ、たまたま。そもそも、この試練は人間が二人でやるもので、大精霊を宿した子供が一人で受ける想定をしておらんからな。」
ヴァンは腕組みをして考えた。だが時間も無い。
「ああ面倒臭ぇ。考えるのは辞めだっ! なるようになるっ! 」
突然、ヴァンは走り出した。そして時々ダイヤモンドイーターとの距離を測りながらフラムマが火を灯す。ダイヤモンドイーターが突っ込む一歩手前で消える微妙な距離と火の強さ。それを繰り返すうちに二匹のダイヤモンドイーターは離ればなれになり、それぞれが別々の檻と等距離になったところで檻の入り口と反対側に火を灯す。今度は火は消さない。その所為でダイヤモンドイーターたちは檻の奥に釘付けになっていた。その間にヴァンが入り口に回り込んで蓋を占めた。
「ほう… 考えておったではないか。」
「んなんじゃねぇよ。走りながら閃いただぁけ。どうせ、次は一人なんだろ? 早いとこ扉開けよ。」
ヴァンの声に呼応するように扉が現れた。そしてフラムマが離れると一人、扉に入っていった。その頃、シエルの前にもマリクの前にも二匹のジュエルイーターが居た。居たのはダイヤモンドイーターと同じくジュエルイーターの亜種だが、一匹はルビーイーター、もう一匹はサファイアイーターなのだという。そしてシエルにはルビーイーター、マリクにはサファイアイーターを触れずに選別して捕まえろという。性質としてはルビーイーターは光を好み、サファイアイーターは風を嫌うという。この二人にはイージー問題のようでもあるがシエルがルクスに明かりを灯させると二匹とも寄ってきてしまった。
「何、これ? 」
『どうやら、ルビーイーターは光を好むけど、サファイアイーターは風は嫌うけど光を嫌う訳じゃないって事みたいね。』
「なによ、それ!? 意地悪いわねぇ。ルクス、何か方法無いの? 」
『そう言われてもねぇ。』
ルクスの気の無い返事にシエルは考えた。
「じゃあ、ルクス、あいつらの周りをぐるぐる走って。」
『えっ!? 私が走るの? 宿主じゃなくて? 』
「考える気が無いんなら、そのくらい、してよね。どうせ、この試練終わったら別々なんだし。」
『なんだか知らないけど、やってあげるわ。ただ走ればいいの? 』
「追いつかれない程度に走って。少しずつ速くねっ! 」
『了解。』
シエルの言うとおりにルクスがぐるぐると回ると途中で一匹が足を止めた。
「ルクス、そのまま檻の向こう側へっ! 」
ルクスが檻の向こう側に行くと、まだ追っていた方のジュエルイーターは、そのまま檻に飛び込んだ。するとすかさずシエルが蓋を閉めた。確かにジュエルイーターには一切、直接触れてはいない。すると二つの扉が現れた。
『よく分かったわね? 』
「前にジュエルイーター見た時に群れを作ってたから。サファイアイーターは光を追っかけているんじゃなくてルビーイーターを追っかけるんじゃないかと思ったのよ。で、だんだん速く走ると自然に風を感じて先に足を止めた方がサファイアイーター。」
『ちょ~っと博打だけど、上手くいったみたいね。この調子で次も頑張ってらっしゃい。』
「安心なさい。あんたを宿無しにはしないから。」
そう言ってシエルも扉に入っていった。その点、マリクの方はラッキーかもしれない。ジュエルイーターとしては一度会っている。モンスター・ブックでルビーイーターとサファイアイーターの違いを確認すると、あとはマリクが特定した方のジュエルイーターをウェントゥスの風の能力で檻の中に追い込むだけだった。
『次は一人だよ。』
「うん。でも、頑張るよ。ここまで皆に助けられてばかりだからね。ここでクリア出来なかったらシエルやヴァンに何を言われるか分からないからね。」
『そして、ブルハを助けに行く、かな? 』
ウェントゥスの、その問いには恥ずかしそうに頭を掻いただけで返事はしなかった。それでも決意を固めたように真剣な面持ちで扉の中へと入っていった。そして扉は閉じられた。




