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三つ子の魂、Level 100 まで!!!  作者: 凪沙一人
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第四話 憧れ以上、目標未満

「忘れ物はなぁい? 」

 マリアの言われて自分たちの手荷物を何度も確認する。シエルが眼鏡スペクタルズをしまうのも、マリクが魔物図鑑モンスター・ブックをしまうのも、マリアは気づいていたが何も言わない。マリアにとっては見覚えがあり、懐かしくもあり、前の所持者も心当たりがある。それでも、そこには触れない。これから成長していく子供達に余計な知識は冒険の妨げに思えたからに他ならない。

「おう、三人とも、もう行くのかい? 」

 三人は家を出たとたんに、村中の人たちに囲まれた。

「あたしたちの時とはえらい違いね? 」

「そう言うなよ、マリアさん。あんたらの時は、まだ魔王の恐ろしさも分からなかったし、勇者がホントに魔王と戦うなんて思ってなかったからさ。この子たちには期待してるんだぜ。」

「そうそう、勇者と聖女の子だもん、血統がいい。」

 笑顔で村人の相手をしているが、内心では子供に全て押し付けているようにしか思えなかった。無論、自分たちが冒険に出た時は、そんな事は考えていなかった。おそらく、この子たちも考えてはいないだろう。今は純粋に世のため人のため、世界に住む動植物を守るため、頑張って欲しい。無理のない範囲で。きっかけは父の仇討ちであっても。そんな親の気持ちを知ってか知らずか、子供たちは元気に村を出発した。

「取り敢えず、何処行く? 」

 あっけらかんとヴァンが聞いた。まぁ、マリクもシエルもヴァンに計画性は求めていなかった。

「レベル上げないといけないんだから、この辺より、ちょっと強いモンスターの居る所に行かないとね。」

 やるべき事は合っているのだが、実際に何処へ向かうかという具体性が無い事と、先日の魔女への下心が見え隠れしている気がするマリクにシエルは頭を痛めていた。

(ダメよシエル。私がしっかりしなきゃ。そうでないと、この二人、迷子になってモンスターに襲われてお陀仏よ。)

 シエルは自分に言い聞かせていた。

「取り敢えず、近くの村か町に向かいましょ。最初の村周辺よりはモンスターが強くなっているのが、お約束だから。」

 だが、そこでシエルは気がついた。世界地図ワールドマップが無い。村から遠出をした事の無い三人には、どっちへ行けばいいのか分からない。冒険の旅はいきなり困った事になった。

「何だよ、いきなり迷子かよ? じゃ、きっと、こっちだ。俺の感がそう言ってるっ! 」

 ヴァンの感がアテになるとも思えなかったし、ろくな事にならない気はするのだが、他に何のアテもない。強いモンスターに出会ったら逃げればいい。シエルとマリクも仕方なくヴァンに続いた。得てして、こういう時は悪い予感の方が当たるもの。行く手に見慣れない魔物が現れた。

「なんだ、こいつ!? 」

「魔獣、狐狼ウルフォックス。狂暴でズル賢いって。」

 マリクがM.B.(モンスターブック)を読み上げた。

「レベル7、一匹なら三人で倒せるわ。」

 シエルは眼鏡スペクタルズを掛けていた。

「やっぱ、お前らだけ、ズルぃぞっ! 」

 そう叫ぶヴァンだったが、文句を言ってる場合ではない。剣を抜いて狐狼に向かっていった。マリクも火の玉(ファイアボール)で援護する。シエルの言うとおり、一匹の狐狼は退治出来た… のだが。

「なんだ、また出てきた。」

「こいつら、群れをなして行動するってっ! 」

「バカっ! マリク、そういうことは先に言えっ! 」

「だって、さっきの一匹目、倒すまで書いて無かったんだもん。」

「無駄話しは後にして。この数じゃ、こっちの体力も魔力も持たないっ! 」

 だが、逃げようにも既に周囲は囲まれていた。と、その時である。

「うぉりゃぁ~っ! 」

 豪快な掛け声と共に、狐狼の群れの一角が崩された。それは戦斧を担いだ大男だった。その迫力に気圧されたのか、狐狼たちは逃げていった。

「なんだ小僧ども、初心者か? この辺のモンスターは一匹ずつは大したこと無いが、群れを作る種類が多いから気をつけんとな。」

「ありがとうございました。お陰で助かりました。」

「ん!? んん~っ! 」

 大男はお礼を言ったシエルの顔を食い入るように見てきた。その迫力に思わずシエルも後退った。

「な、何か? 」

「ひょっとしてマリアの娘か? 」

「は、はい… 。」

「がっはっはっ。どうりで、めんこくて賢い訳だ。するってぇと、あとの二人は? 」

「私たち、三つ子なんです。」

 今度は多少驚いたように大男は三人の顔を見比べた。

「なるほど… じゃ、最初に突っ込んで行ったお前に、いいもんやる。」

 そう言って大男はヴァンに一振りの剣を差し出した。

「あれ? おっさん、抜けないぞ? 」

「その剣は使用条件がレベル10以上だからな。ホントは嬢ちゃんに何かやりたいとこだが、俺は魔法がからっきしで、やれる物が無い。だから、お前がその剣で兄弟を守ってやれ。なにしろ、その剣は俺が勇者から、お下がりで貰った物だ。」

 その一言でヴァンの目の色が変わった。三人にはマリアから聞かされた話し以外に父親の想い出らしい物は無かった。

「勇者が初期専用装備を手に入れた時に、それまで俺が持っていた武器より強かったんで、くれたんだ。大事にしろよ。」

 そう言いながら大男は、さっき倒した狐狼を一匹、捌くと肉の塊を差し出した。

「腹、壊すといけないから、生で食うなよ。残ったら干し肉にするといい。毛皮は売ってもいいし、旅人の服よりは防御力の高い服か、板に貼って盾にするといい。」

「俺、おっさ… おじさんみたいに強くなるっ! 」

 ヴァンにそう言われた大男は顔をしかめた。

「バァカ。お前が目標にすべきは俺じゃねぇ。俺より、ずっと強かった勇者だ。じゃあな。」

 大男が立ち去った後、結局次の町にはたどり着けず、この辺は野宿やテントでは危険と判断してコテージを使った。この日、ヴァンは嬉しそうに貰った剣を抱き締めて眠りについた。

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