第二十七話 装備・ウルツァイト
「それで、あの子たちに力、貸してくれるの? 」
ブルハの質問にテネブラエは苦笑した。
『妙な事を尋ねるな? 我は闇の大精霊テネブラエ。我が力を貸すは、我の試練を乗り越えし者のみ。まだ、我の試練に挑むには時期尚早。時が来て、我試練を乗り越えた暁には力を貸そう。』
「相変わらず、お堅いわね。あんたが早目に力を貸せば、あの子たちのレベルアップも早まるんだけどな。」
『そんな事でレベルを上げても実力とは言えまい。あの子供らを早死にさせたいのか? 』
「そんな訳、ないでしょ。ちょっと魔王の動向が気になってるだけよ。」
『確かに不穏な動きが無いとは言えぬが… 。有史以来の決まり事。変える訳にはいかぬ。』
「じゃあ、あの子たちが試練に挑めるようになるまで、私が仮宿になってあげる。私なら試練クリアしてるんだから問題無いでしょ? 」
『確かに、それはそうだが… 』
「私の中にテネブラエが居るって事は、あの子たちにはナイショにするわよ。何かあったらシュヴァルツやノワール使えばいいでしょ? 」
『相変わらず口の達者な奴だ。取り敢えず様子見させて貰うとしよう。』
「あんたも相変わらず素直じゃないんだから。でも、いいわ。暫くは、また宜しく。」
こうしてブルハはテネブラエを宿すと四人の元に戻った。勿論、大精霊たちは、その事に気づいたがテネブラエの性格を考えると自分で言い出すまで見ぬふりをする事にした。おかげで子供たちにもヴォルティスにも気づかれる事はなかった。ヴォルティスにも内緒にしたのは、あまりにも隠し事が下手だったからだ。
「見ろよ。ウルツァイトが6~70個は採れたぞ。」
自慢気にウルツァイト鉱の入った袋を持ち上げるヴォルティスを見てシエルは腹が立ってきた。
「ちょっとヴォルティス。少しは囮になったブルハに労いとか心配の言葉とか無いの? 」
するとヴォルティスは不思議そうな顔をした。
「要らないだろ? ブルハは天才魔法使いだぞ。イーターぐらい朝飯前だろうし、何よりブルハの凄さは知ってるからな。心配無用だ。」
シエルはブルハ自身が言うのなら分かるが、お前が言うなと言ってやろうと思ったが、ブルハが笑いを堪えているのを見てやめた。それだけ二人の間には信頼関係が築かれているのだろう。ともかく、予定以上のウルツァイト鉱を手に入れたのだ。長居は無用とばかりに五人は足早に引き揚げた。ギルドに戻るとボーグが五人を待っていた。
「そろそろ戻る頃だと思って待ってたよ。首尾はどうだった? 」
「私を誰だと思ってるの? 」
そう言うとブルハはヴォルティスに持っていた袋をテーブルに置かせた。
「さすが、天才魔法使いブルハさんだ。数は… おぉ、こっちの要望の倍以上あるじゃないか。それに純度も申し分ない。まぁ、こっちも、それを見越してたんだがな。」
ボーグが合図をすると男が台車を押してやって来た。
「弟のブーグだ。この最硬の鉱石ウルツァイトを加工出来る職人はそうはいねぇ。メンテナンスは任せてくれ。安くするぜ。」
さすがに、ただとは言わないが、下手に加工しようとすれば工具の方が硬さに負けてしまう。そんな特殊技能とも呼べるウルツァイトの加工を安くして貰えるなら、ありがたい。台車の上にはウルツァイト製の剣、兜、鎧、脛当て、手甲が揃っていた。
「本当に見越していたのね。」
「こっちも先々まで商売になりそうな相手は見極めないとね。」
そう言って装備一式を置いて去っていった。
「ヴァン、全部お前のだよ。」
「おぉっ! やったぁっ! 」
ブルハからウルツァイト装備を受けとるとヴァンは大喜びだ。今まで、常にシエルやマリクの後回しにされていたので、新しい装備を最初に貰えたのが、よほど嬉しかったのだろう。ブルハがマントルイーターを倒した事によって子供たちにも少なからず経験値が入った。だが、数字的な経験値が入っても実戦経験は何もない。
「ヴァンは新しい装備に慣れる為にヴォルティスと魔物狩りね。マリクは私と魔導書代とローブ代稼ぐわよ。イーターは物納で一銭にもなってないんだから。」
「え? ブルハ、私は? 」
「君は僕と別行動。」
シエルの質問に背後から答えが返ってきた。聞き覚えのある声にシエルが振り向くと、そこには眼鏡をくれた青年が立っていた。
「さすが、レケンス。時間通りね。」
「レ、レケンス様…。」
シエルは瞳を輝かせながらレケンスを見上げた。ブルハを見るときのマリクをとやかく言えたものではない。
「様はやめてもらえるかな? レケンス・ドゥロセロス。レケンスでいいよ。」
「それじゃぁ、明日はバンバン稼いで装備整えたら、明後日は次の街に出発するからね。取り敢えず、そこまでは付き合ってあげる。その先は、成り行き次第ね。」
子供たちからすれば効率よくレベルは上がるし、色んな事も教わる事が出来る。両親と知り合いでもある。それは頼もしくもあり、子供だけの旅よりは安心出来た。ブルハたちからすると甘やかす訳にはいかないのだが、魔王の動向が引っ掛かっていた。その為に子供たちを強くしたかった。




