第二十五話 最硬・ウルツァイト
あれからシエルのブルハを見る目が少し変わった。口先や見た目だけではなく、歴とした実力者なのだと見せつけられたからだ。4人はギルドに戻るとラットリオンの報償金とキャッリオン分の追加報酬を受け取った。
「これで腹一杯食えるよな!? 」
大金が入った事で御馳走にありつけるとヴァンは思っているようだがシエルの財布の紐は簡単には緩まない。
「バカ言わないで。何のために稼いだと思ってるの? 装備整える為でしょ? 」
「ちょっと。あんたら強い装備が欲しいのかい? 」
「なんだ、ボーグじゃないか? 何の用だい? 」
どうやらブルハの知り合いらしかった。
「採掘クエストをやる気はないかなと思ってさ。」
採掘、つまり鉱物などを掘り出すクエストだ。ボーグの話では希少鉱物のウルツァイトが最近、手に入り難くなっているらしい。原因は手強いモンスターが採掘場に住み着いたとの事だ。
「どうだろう、金はそんなに出せないが、ウルツァイト10個で兜、20個で鎧と交換でどうだ? なんなら弟のブーグに言って剣も用意する。」
ボーグの話しにブルハは少し考えていた。
「どうする、あんたら。ウルツァイトの防具、武具と云えば魔法効果は期待出来ないけど物理系の防御、攻撃なら結構使えるけど? 」
「難易度次第です。手強いってだけじゃモンスターのレベルも分からないし。」
「ふぅん。さっすがマリアの娘ね。ねぇ、手強いモンスターって何が居るの? 」
「ロックイーター、ジュエルイーター、それにマグマイーターだ。」
「ん~、ウルツァイト装備の代償としては妥当かもなぁ。」
「強いんですか? 」
「まぁね。ウルツァイト採掘場辺りだと、多分レベルも40前後はあると思うし… 。」
「なんなら、手伝おうか? 」
聞き覚えのある野太い声がした。そこには戦斧を担いだ大男が立っていた。
「あぁらヴォルティス、珍しくタイミングいいじゃない。さすがの私も、この子たち守りながら集団で来たらどうしようかって思ってたのよ。」
「ヴォルティス… さん? 」
「おぅ。名乗るのは初めてだな。ヴォルティス・ヴォルカーノだ。お前らもヴォルティスでいいからな。」
「それじゃ出発は明日の朝よ。寝坊しないでね。特にヴォルティス。」
まるでシエルとヴァンのようなやり取りにマリクは笑いそうになった。
「で、悪いんだが… 宿屋が満室なんだ。相部屋って事に… 。」
最近は少し大きな街に行くと冒険者が溢れ帰っていた。まともに働こうにも魔物が多くて仕事にならない。逆を云えば魔物退治の仕事は山のようにある。それでも魔王を倒そうなどという気概のある者は皆無だが。
「えぇ!? 二部屋しかしとってないし… マリク、私の部屋に来る? 」
「い、いいんですかっ!? 」
一瞬、目を輝かせたマリクの耳を即座にシエルが引っ張って下がらせた。
「いい訳、ないでしょっ! ブルハもマリクをからかわないでくださいっ! 」
「あら怖い。勇者誘った時のマリアみたい。煩い小姑は婚期遅れるわよ? 」
「誰が煩くさせてるんですかっ! っていうか、お父さん誘ったなんて最低っ! 」
「だぁって、マリアと結婚前だったしぃ。って冗談はさておき、明日に備えてね。」
シエルには冗談に聞こえなかったし、やはり実力は認めるが人間性は受け入れ難いと思っていた。翌朝になると時間通りに5人とも集まるには集まったが子供たちは眠そうだった。
「ぁんたら、そんなんで採掘出、出来んのぉ… 」
そう言うシエルも、かなり眠そうだ。
「ヴォルティスの鼾が煩くて寝られやしない… そっちも眠そうだな? 」
「ちょっとした特訓… より、その後の肌ケアが煩いのなんの。」
「あらシエル。若い時の肌ケアが20年後、30年後にものをいうのよ。寝不足は美容の大敵なのに特訓付き合ってあげたんだから、お手入れは念入りにやらないと。」
「大人って面倒臭いのな。」
ヴァンがブルハを見ながら、そう言うと、
「いつまでも子供なのも面倒臭そうだけどね。」
とシエルがヴォルティスを見ながら口にした。するとブルハとヴォルティスは互いに顔を見合わせた。二人とも、相手に対しては思い当たるのだが、自分の事は棚に上げたようだ。
「ここがウルツァイト坑か? 外まで魔物の臭いが漂ってやがるな。」
ヴォルティスは辺りを見渡すが、外にまでは出て来ていないようだ。そもそも、このウルツァイト坑に巣食っている魔物は岩や宝石の原石、マグマを食糧としている。ただ、浅い層に生息しているロックイーターなどは地上に現れる事もある。まして魔王の手下であれば、人間を襲いに出てくる事もある。油断は出来ない。周囲に気を配りながらヴォルティスが先頭を、ブルハが殿を務めてウルツァイト坑を進んでいった。
「ウルツァイト鉱って、こんな場所にしか、ないんですか? 」
「しょうがないのよ。ウルツァイト鉱って火山性残留物で出来てるから、どうしても、こんな場所になるのよね。」
シエルの質問ブルハは仕方ないと言わんばかりに答えた。
「で、どうやって見つけるんですか? 」
「あなた、便利な道具を持ってるでしょ? 」
ブルハに言われてシエルには思い当たる道具が一つだけあった。




