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三つ子の魂、Level 100 まで!!!  作者: 凪沙一人
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第二十一話 研究者・カレイド

 この薄暗い研究室の中で、どのくらい気を失っていたのだろう。時計もない屋内では時間も分からないが、今日の夕暮れという刻限まで、そう長くはない筈だ。ただ、カレイドの様子から、まだ過ぎていない事はマリクにも想像出来た。マリクは小石を拾うと順に井戸に落としていった。ポチャンと音のした井戸、コツンと音のした井戸、何も音の返ってこない井戸。魔物の咆哮のようなものが聞こえる井戸、激しい風の音が聞こえる井戸、河のうねりのではような音のする井戸。その様子に気づいたカレイドが声を掛けてきた。

「そんな事をして、何か判ったか? 」

「魔物の声がするのは違うとと思う。それじゃ試練じゃない気がするから。河の音も違うと思う。地上を流れているならともかく、地下水が音がするくらいの勢いで流れているなら湖には流れ込まないでしょ? 音が返ってこないのは深すぎる。カレイドさんは飛び込めって言った。あの深さに飛び込んだら危なすぎる。問題は水音と石音。神殿に直接、繋がっているなら、地下通路で石音もあるかもしれない。けど、カレイドさんは神殿の在る湖に繋がっているって言った。だから水音のした井戸が正解だと思う。」

「なんだ、ちゃんと考えれば分かるんじゃないか。そうやって、まずは自分で考えろ。それでも分からなかったら尋ねるがいい。ただし、同じ事を尋ねるのは二回までだ。それ以上は覚える気がないと見なす。井戸の先が入れ代わる前に早く行くがいい。」

 そう言ってカレイドはマリクに一枚の衣を手渡した。

「これは? 」

「水の羽衣。湖の中でも地上のように動け、呼吸も出来る。自分の頭で正解を導き出した褒美だ。」

「ありがとうございます。」

 マリクは水の羽衣を受け取るとポチャンと水音のした井戸に飛び込んで行った。

「あらあら、カレイドも随分と甘くなったんじゃない? 」

 いつの間にか現れた魔女がカレイドに声を掛けた。

「あいつは魔法で何でも解決しようとした貴様とは違う。少々、他人を信じ過ぎるきらいはあるが、何でも疑って掛かって墓穴を掘った貴様よりはマシだ。」

「あれはカレイドがひねくれてたからでしょ!? ま、問題はこれからなのよね。」

 魔女とカレイドはマリクの飛び込んだ井戸を見つめていた。

「うわぁ、本当に呼吸が出来るっ! 」

 正直、泳ぎの苦手なマリクにとって水の羽衣は、うってつけのアイテムだった。扉を開けてマリクは中に入ったが水は流れ込んではこなかった。結界というよりは気圧が高いように感じた。中ではヴァンとシエルが待っていた。

「マリク、何着てるの? 」

 見慣れない格好のマリクにシエルが尋ねた。

「水の羽衣。門番のカレイドさんがくれたんだ。」

「いいなぁ。俺んとこのピートって門番なんか、泥だらけにされて水掛けられて火つけられただけで何もくれなかったぜ。」

 なんとなくヴァンも大変だったのだろうなと云う事は、なんとなく伝わってきた。あくまでも、なんとなくだが。

「取り敢えず、アクアの宝物を探しましょ。どんな物なのか、ヒントになるものとか。」

 シエルは、そう言うがアクアからは具体的に宝がどんな物か聞いていない。持って帰ってこいと言うのだから、子供でも持てる物だろう。そう思っていたがマリクは何か考えていた。

「どうしたの? 」

「宝物って物なのかな? 」

「当ったり前だろ? 宝“物”ってくらいなんだから。」

「ヴァンは黙ってて。どうして、そう思うの? 」

 シエルはヴァンを嗜めた。

「僕の来た道の門番のカレイドさんは、まず自分で考えろって。」

「で、考えた結果は? 」

「多分、物は… 無い。」

「じゃ、帰りましょ。」

「え!? シエル、本当にいいのかよ? 」

「現に、らしき物は無いし、時間も無い。それにマリクが言うんだから信じましょ。」

「それも、そうだな。帰ろ。」

 この流れはマリクにとっては想定外だった。そして、二人も此処に来る時に何かを学んで来たのだと思った。

(もしかして、宝ってこれ?)

 問いかけてみたが、ウェントゥスからの返事はなかった。

「お帰りなさい。それで宝物はありましたか? 」

「なぁんだ。その言い方だと、やっぱり宝物なんて置いてなかったんだ? 」

 シエルにそう言われてアクアは少し動揺した。

「そ、そんな事、にゃいわ。」

「あ、噛んだ。」

「うるさいっ! 宝物持って来なかったんなら試練は失敗よっ! 」

 機嫌を損ねたアクアの前にマリクが進み出た。

「水の大精霊アクア。僕たちは試練に向かう関門で、僕は智を学び考を覚えました。シエルは勇を示しヴァンは仁を表しました。仁智勇の三徳、これが僕らの宝物です。」

「はいはい、合格合格。それじゃ、今の君。君に宿るからね。脳筋とか生意気な小娘はゴメンだわ。」

「脳筋って誰の事だよっ! 」

「何、その投げやりな態度? それに小生意気って何よ、小生意気ってっ! 」

「ほら。誰って言ってないのに自覚あるんでしょ? それに小生意気じゃなくて生意気って言ったのよ。」

 それだけ言うと、アクアはそそくさとマリクの中へと消えていった。

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