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三つ子の魂、Level 100 まで!!!  作者: 凪沙一人
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第二十話 泥炭・ピート

「うわっ!? 」

 ヴァンの飛ばされた先は泥沼の中だった。

「うげっ… ペッ、ペッ。」

 口の中に入った泥を吐き出し、顔を拭うが両手も泥まみれのため、上手く目が開けられない。

「なんだ。だらしないな。あの勇者の息子だっていうから期待してたんだけどなぁ。」

 なんとなく声がした気がしたが耳にも泥が付いてよく聞こえない。それでもヴァンは剣を身構えた。

「へぇ。… 本能なのか、血統なのか。少し、おまけしてやるか。」

 声の主が指をパチンと鳴らすと、ヴァンの頭の上から綺麗な水が、バケツをひっくり返したような勢いで落ちてきた。

「ぶふぁ~っ! 何しやがるっ! 」

「これで目も耳も使えるだろ? 」

 声の主の言うとおり、ようやく目を開ける事が出来たし、その声も聞き取る事が出来た。

「俺は門番、泥炭のピート。試練に挑もうとする者を見定める者だ。俺が敵だったら水なんて掛けてくれないぜ? 今日のところは、戦う姿勢を見せたから、おまけだ。ところで泥炭って知ってるか? 」

「なんか、燃える泥だろ? 」

「え、それだけか? ざっくりしてんな? 学校で習わなかったか? 」

 そんなものは居眠りしていて聞いていない。燃える事を知っていたのは、写したシエルのノートに、そんな事が書いてあったのを覚えていただけだ。実際、可燃性ではあるが炭化度は少なく石炭と泥の中間といった感じだ。山火事の原因とも言われるが燃料としては乾燥させなければ使いづらいといえる。

「で、どんな試練やればいいんだ? 」

「人の話しを聞け。俺の受け持ちは試練を受ける奴の事前審査だ。俺の審査を通過出来たらアクア様の試練が受けられる。」

 それを聞いてヴァンは露骨に嫌そうな顔をした。

「俺、そういう回りくどいの好きじゃねぇんだよ。とっとと通過させてくれよ。」

「お前がアクア様にケチ臭いとかぬかすから、面倒になったんだろっ! 云わば自業自得って奴だ。言っとくけど、元々の夕暮れまでって期限はそのままだから、急いだ方がいいぜ。」

 確かにアクアに向かってケチ臭いと言ったのはヴァンだったし、自業自得と言われれば返す言葉もない。だが、それよりもヴァンが気になったのは時間だ。日が暮れるまで、あと、どのくらいあるのだろうか。

「で、どうすりゃいい? 」

「事は簡単。脱出出来たら関門突破。出来なきゃ丸焦げだ。頑張れよっ! 」

 そう言うとピートは泥炭に火を放った。

「熱っ! くそ。モンスターよりたちが悪ぃぞっ! 」

 燃えるといっても泥は泥。思ったようには動けないし、潜ってやり過ごす事も出来ない。

『ピート、ヴァンはまだ、大地の力を使えないのよっ!』

「えぇ!? 先に言えよ。じゃあ、テラも手伝っいいぜ。」

 テラの言うとおり、ヴァンは元々が魔法系ではないし精霊を宿したばかりで、ろくに使いこなせない。

『ヴァン、ここは砂を… え? 』

 テラとしては、砂で泥炭の表面を覆い、鎮火させようとした。だがヴァンはテラの話しを聞くより早く剣圧で泥炭の火を吹き消していた。ピートの放った火の元は燐なので低温発火するのだが、ヴァンはその度に吹き消しながら力ずくで泥沼から這い上がった。

「ふぅ。どうだ、脱出したぞ? そうだ、テラ。何の話しだったんだ? 」

『いえ… 何でもないわ。』

 この状況にテラも呆れていいのか、誉めていいのか戸惑っていた。

「そっか? ま、いいや。で、ピートっつったっけ? これで関門突破でいいんだろ? 」

「えっ!? あ、あぁ。長いこと門番をやってるが、こんな力任せな方法は初めて見たよ。でも脱出出来たら関門突破って言ったんだ。どんな方法だろうと脱出したんだから関門突破だ。先に進みな。」

 ピートがそう言うと泥炭の泥沼の中から石の門が競り上がってきた。

「へっ、どうだ。時間が無ぇからじゃぁなっ! 」

 少し疲れた様子を見せながらもヴァンは門の中に消えていった。

「理屈を考えるより体が先に動くタイプだな。嫌いじゃねぇぜ。」

 そう言ってピートは門を閉じて共に泥炭に沈んでいった。


 ***


「あれ、ここは? 」

 マリクが目を覚ましたのは、薄暗いジメジメとした部屋の中だった。

「やっと目を覚ましたか。私にとっては招かれざる客だが、アクア様から門の一つを預かる身。仕方がないから拾ってやった。とっとと、そこの井戸に飛び込め。」

 見ると気難しそうな男が机に向かったまま、一瞬一方を指差すと直ぐにペンを持って書き物を始めた。

「貴方は? ここは? 」

 マリクは問い掛けたが、男は黙々と書き物を続けていた。

「あのぉ… 」

「煩い奴だ。研究の邪魔だ。アクア様の門を預かる身だと言っただろ。それなら、ここは門で私は門番に決まっている。少しは頭を使え。」

 男は再び、黙々と書き物を続けた。

「あの、おじさん。どの井戸が門なんですか? 」

 男の指差した方向には、いくつもの井戸が在った。

「まず、私はカレイド。おじさんではない。人間の年齢で計るな。井戸は好きなものに飛び込め。運が良ければ神殿のある湖に繋がっている。」

「運が悪いと? 」

「知らん。この井戸は入り口。出てきた者はいないからな。ちなみに正解も知らんから聞くな。その時々で井戸の先は変化する。何でも人を頼らず自分の頭で考えろ。求めるならば行動せよ。」

 カレイドはまた、机に向かって書き物を続けた。

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