第十四話 魔獣以上、聖獣未満
三人が駆け抜けると、少し広い場所に出た。
「これって、Boss戦のお約束ってやつよね? 」
『当ったりぃ~。これから出てくるのは霊獣ヴォルガ。聖獣や神獣ほど強くないけど、魔獣よりは強いから、心して戦ってね。』
「なっ… ルクスっ!? 」
ルクスの声は聞こえなくなった。自分たちで何とかしろと云うことなのだろう。地鳴りのような咆哮が聞こえてきて思わず三人とも耳を塞いだ。
「なんだよ、この唸り声? ってか声なのか? 」
思わずヴァンも叫んだ。自分が耳を塞いでいるものだから、大声になる。
「来るわよっ! 」
「なんだよ、あの紅白の霊獣はっ! 」
三人の眼前に現れた霊獣は半身は氷のように白く、半身は炎のように赤い。
「火と氷? 大地の精霊向けの訓練じゃなかったのかよ!? 」
『あれは半身が凍土、半身が溶岩。岩と土。つまり地の霊獣で間違いないよ。』
「ウェントゥス!? 」
ヴァンの疑問にウェントゥスが答えたのだが、そのヴァンには聞こえていない。仕方なくマリクが内容を伝えた。
「くそぅ、精霊の声が聞こえねぇって不便だよなぁ。」
「仕方ないでしょ、相性の問題なんだから。それより、ゼリーとか高温地帯って、この霊獣戦に何の参考にもならないのね。」
『そりゃそうよ。魔王と戦う時に予行練習させてくれって言うつもり? 』
つまり、臨機応変に対処してみせろと云うことらしい。といっても、霊獣の凍土は、やはりマリクの火力では溶けそうもない。溶岩も冷やす方法が思い当たらない。
「危ねぇっ! 」
霊獣がシエル目掛けて放った溶岩弾をヴァンは凍土側の横腹に打ち返した。予想外の出来事だったのか、霊獣は悶絶していた。
「油断してんじゃ、ねぇよっ! 」
「ゴメン、ありがと。でも、今の… 狙ったの? 」
「当ったり前だろ? この場所で一番熱いのが奴の溶岩なら凍土に一番、効きそうじゃん。多分、奴の凍土なら、あの溶岩、冷やせんじゃねぇ? 」
言われてみれば、その通りなのだが。自分たちで足りなければ相手の力も利用する。何でも自力で解決してきた者が意外と見落とす手法なのかもしれない。
「次は凍土側の攻撃を溶岩側にぶつければいいのね。ルクスっ! 」
凍土側の放った攻撃は冷凍光線だった。光線となればルクスの支配下である。いとも簡単に跳ね返すと霊獣は再び悶絶した。
『そこまでっ! 』
「え? 」
三人は倒すものだと思っていたので拍子抜けしてしまった。
『言ったでしょ? これは霊獣であって魔獣じゃないの。敵じゃないの。あなたたちの訓練を手伝ってくれただけなの。山頂の鳥とは訳が違うの。って、あぁ、面倒臭いっ! 』
ルクスはシエルから抜け出ると、ぐったりしている霊獣を拾い上げてヴァンにねじ込んだ。
「ぐぉっ!? 何しやがる? 」
『これで聞こえる?』
「お? おお? 久しぶりにルクスの声だ。」
『特例よ、まったく。試練以来よね。本来、宿主を決めた精霊の声は、何らかの精霊を宿してないと聞こえないんだけど。霊獣は話さないから、内なる声はしないけど、こちらの声は聞こえるようになったでしょ? 』
「でも、大丈夫なの? 霊獣宿すって問題無いの? 」
『一時的なものよ。テラが来たら同属性は同じパーティーに居られないから出て行くわ。』
「それって、テラがヴァンを選ばなかったら… 。」
『もちろん、また聞こえなくなるわよ。』
「えぇ~っ。何か中途半端だなぁ。借り物みたいじゃん。」
今まで精霊に選ばなかったヴァンとしては、やや不満だった。
『贅沢、言わないっ。正直、あんたたちが今のレベルで、ここまでやるとは思わなかったのよ。霊獣が弱り過ぎちゃったから借宿で休ませる必要が出来ちゃったの。あんたも暫くは、こっちの声が聞こえるようになったんだから我慢しなさい。』
ヴァンとしては、今一つ納得がいかない。
『でも、これでテラの試練を受けに行っても、いいかな。どう思う、ウェントゥス? 』
『取り敢えず、受けに行くのはいいかな。』
「何、奥歯に物が挟まったような言い方してんのよ? 」
ウェントゥスの言い方が、シエルには引っ掛かった。
『これまでの訓練で、光の幻影や風の迷宮のような、テラまでの障害は乗り越えられると思うんだ。』
「何、それ? 障害乗り越えられても、試練は分からないって事? 」
『いや、巨鳥やゼリー、霊獣戦で見せたような臨機応変な対応が出来れば、テラの試練も何とかなると思う。ただ、テラは精霊の中でも旧い精霊でね。臍を曲げさせたら試練を受ける事自体が難しくなってしまうんだ。』
「何、それ? 取り扱い注意の頑固爺って事? 面倒臭いけど、気をつける事にするわ。先に釘刺しておくけど、余計な事、言わないようにね、ヴァン。」
「何、それ? 何で俺だけ? 」
「ヴァ、ン。」
「はいはい、分かりましたよぉっだ。」
色々と不満のあるヴァンではあったが、これ以上シエルに食い下がっても口では敵わない事は知っている。今はそれよりも大地の精霊テラが自分を選ばなかったら、また一人だけ精霊の声が聞こえなくなる事の方が気掛かりだった。




