サキュバス
十七時過ぎ。
ちょうど瑞樹一行が叢雨を倒し終えたそのころ。
休業中のプール施設のその一角。
瑞樹があかねを守ろうと、一度力を行使したその場所に赴いている者がいた。
「はあ、それにしても私がこの刀をてにするのも久しぶり・・・・・・いえ、戦闘で使うのは幾年ぶりかですね」
隠す必要もない。
瑞樹たちのところに行けなかった、その人物、輪花さんだ。
刀を二本装備し、動きやすい忍者みたいな服装で髪も一つに束ねている。
「それにしてもこんなに成長しているなんて、それに数も・・・・・・聞いてない」
輪花は目の前の光景にため息をつく。
「なんだ、姉ちゃん、そんなところ居ると食っちまうぞ」
異形、日本風にいうなら妖怪と呼ばれるような、そんな存在が輪花の目の前には立ち込めていた。
「あなた方はなぜそんなに多いのでしょうか?」
「ああ??」
「見たところ低級以上の者も見受けられる・・・・・・はあ、これを持たせてくれた桜田には感謝・・・・・・はいりませんね」
「何一人でぶつぶつ」
「魔力の痕跡がはっきり残っているということが原因。回収屋は来たはずですが・・・・・・誰の仕業か知りませんが何が目的なのでしょうか・・・・・・」
「おい、聞いてんのか?」
大仰なその妖怪は輪花に殴りかかってくる。
「早漏は嫌われますよ」
大仰な動きの妖怪の攻撃など輪花に当たるはずもない。
それにしても数が多い。見る限り五十はいるでしょうか・・・・・・
「面倒ですね・・・」
そう言いながら輪花は柄に手を掛けた。
身体は振りを急加速できるようねじり、目は相手を見据え、足、腰を連動させる。
今刀を振り抜けば、それは居合切りとでも呼ばれる代物なんだろうが、輪花のそれはそこに着地しない。輪花の下半身は振り抜きのための準備はしていない。したのは連動、走るときなどの動き出しの準備だ。上半身は振り抜きの準備。前傾姿勢で敵を見据える。そして刀は固い鉱石で作られ、極限まで削られ細身になり、通常の刀より軽い。
これによって輪花の居合は、音速を超える。
「うん??」
妖怪は輪花を警戒し、間合いから外れ距離を取る。
だがしかし・・・・・・
「外れてませんよ」
輪花は振り抜いた。
刹那、妖怪は倒れ、輪花は妖怪の前に立っていた。
冥刀羅刹。
輪花の居合の名前はこう呼ばれる。と言っても言い出したのは桜田だけれど。
冥刀とは悪魔の刀の意で、羅刹とは早いことを表す。とかなんとか。
「これ疲れるんですよね・・・」
間合いはとてつもなく広いように思えるかもしれないが、そんなことはない。居合に動きに古武術の歩き方などを応用しているに過ぎない。
当然体力を消耗していくし、一瞬と呼べる範囲でしか使用できない。
理由は刀にある。
この刀は受けられることを想定して作ってはいない。逆に言うと、受けられたら負けなのだ。
つまり、その限界すれすれを輪花は飛んでいることになる。
その集中力は極限であることは想像に難くない。
数分。
そのまた数分。
見えるところに妖怪はいなくなっていた。
「ふう、片付いたでしょうか・・・・・・」
輪花は辺りを見回しながら、一息つく。
「ふふ、それがあなたの弱点」
「!!!?」
輪花が気づいた時にはすでに後ろから切られていた。
「極限の集中。すさまじいですね。でもそれが切れる瞬間が一番の隙になる。・・・・・・あら思わず攻撃しちゃいましたね。見ているだけのつもりだったのですが」
「あなたは・・・・・・」
輪花は痛みに耐えながら、後ろに振り返る。
それと同時に刀を変える。この傷では音速に届かないと踏んで。
「魔人サキュバス、いえ、あなたにはリリスの方が分かりやすいですね」
銀髪の髪は腰に届きそうなほど長く、背中からは小さい羽根が見える。またお尻の付け根辺りからはしっぽが見え、先端はどことなくハート形だ。燃えるような紅眼に見つめられ、サキュバスになったことでさらに美しさに拍車がかかったように思える。
「どうしてここに」
「どうしてここに、ですか。う~~ん、始めはあなたをおびき寄せるためのエサだったんですが、でも今は食事、ですね」
サキュバスはにこっと笑って見せた。
「知ってますか? サキュバスは快楽を食べるんですよ。まあ、魔力の補充のためなんですが。ああ、快楽って、気持ちそのものを食べるわけではないです。どちらかというと快楽物質ですね。で、それって何も性行為をしている時だけに出るわけじゃないじゃないですか。あなた見てたら美味しそうに思えちゃって。あら不思議。手が出てました」
「う・・・うぐ」
「ああ、傷は治療してあげますからそこに寝てくださいね」
言われるがまま、輪花は身体を動かした。
従ったわけではない。従わされたのだ。
「ああ、美味ですね。戦った後だとやっぱり快楽は豊富ですよね~」
サキュバスは身体をくっつけ、傷口をなめる。そのたびに顔を高揚させ目を潤わせた。サキュバス特有の羽としっぽがそのうれしさを表すようにパタパタと動きながら。
「そろそろ限界ですか? 頑張りましたものね・・・・・・おやすみなさい」
その声を最後に輪花の意識は途切れた。
ちょっとしたネタバレ。
途中でサキュバスちゃんが出てくるけど、話し方違くない? って思われた方がもしかしたらいるかもの補足。
サキュバスちゃんの経過時間は、前章で登場したリリスの未来の姿。ただ、その時間は計り知れない。
分かりやすく言うと、拓抜けしたって感じに思っていただければ大丈夫です!




