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この状況って、萌? それとも百合ですか?  作者: ほのぼの日記
俺は女の子 苦難編
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入学初日 後編

 楓は家を出る時に言ったように昼過ぎに帰ってきた。

 楓は帰ってくるなり、着替えてくると言い残し自室に行ってしまった。

 俺はその時、自室ではなくリビングで昼食の用意をしていたわけだが、楓に昼食がいるのかを聞く暇すらなかった。だが、見た感じから走ってきたのか少し息が上がっていて、汗もうっすら浮かべていたので昼は食べてきていないと判断した。

 ありあわせのメニューだが、もう一人分作る量を増やすことにした。





 楓が着替えて、何やらいろいろと身支度を済ませて自室から降りてくる頃には、昼食も出来上がっていた。

 俺は先にテーブルについて待っていた。楓もそれを見るなり小走りで駆け寄ってきて、すぐに椅子に座る。

 そして昼ご飯を食べ始め、今日この後のことを話し合う。

「お兄ちゃんは、服だけそろえればいいと思ってるの?」

「まあ、そうだけど」

「でも日常品でもいろいろ欲しいものとかあったら便利な物がたくさん出てくると思うから、そういうものも視野に入れておいて欲しいな」

「確かにそういうのはあると思うが、これがいつまで続くかわからないしな」

 できれば早く終わって欲しいと思う自分がいるのは事実で、こうなった理由を探るのも今後の課題だ。そう言ったところから身を固めるのには少し抵抗があった。なんとなく女としての自分を受け入れたみたいで・・・・・

「逆に終わる保証もないでしょ」

 楓のその言葉で俺は言葉を失った。もしかしたら今一番聞きたくないセリフかもしれなかった。

 なんとなく目に涙が浮かんでいるような気もするが、どこか感傷的になりやすくなっているのかもしれない。

「それにお兄ちゃんはもしかしたら早く戻りたいと考えているのかもしれないけど、原因がわからない今変に手出しすることもできないと思うの。だから、まずはどんな状況にも対応できる用意が絶対に必要だと思うよ」

「そ、それは・・・・・」

 楓の言うことは最もだ。これ以上ないほどの正論。正論だけに俺の心が折れそうだ。





 結局、昼食中に話し合ったことで分かったのは、今はこれからのためにもいろいろ用意しておくのが一番。

 そこで、それを今日一日に済ませるのはそれなりに無理があるということ。

 それと、今は楓が一緒だから問題ないが、俺一人になったらまず間違いなく危ない状況になりかねないということを俺は一人心の中で悟った。





 昼食を済ませた後は、一度身支度を整えに自室に戻った。

 それも終わり、もう一度リビングに戻ってきた俺と、荷物をまとめて取りに戻っただけで先に戻ってきていた楓と合流。

 やはりいろいろ買うならということで前回同様ショッピングモールに行くことになった。

 ショッピングモールまでは徒歩とバスで大体三十分くらいで着く。

 ショッピングモールまでの道のりでそれなりのことがなかったので省きたいところだが、俺は自分の恰好が気になり終始ソワソワしていて、よく楓にしっかりしてと小突かれていた。

 そんな俺は心は男のままだと信じているが、終始男性の視線が気になって、見られていないと思っているが、思っていても気になって仕方がないという自分の考えがいかにも自分の思考ではないもののように思えて、どぎまぎしているのと同時に不安と焦りを感じていた。

 このままだといずれ・・・・・





 ショッピングモールに着いたのは三時頃だった。

 俺はショッピングモールに着くなり楓に早く服を選んで着替えたいと伝え、前回に楓の服を選んだお店に小走りで向かった。

 お店に着くととりあえず人目を引くような服ではなく普通の服を選んでかごに入れる。

 それを横から見ていた楓が、お兄ちゃんきれいなんだからもっとおしゃれしなきゃといろいろとあちこちから選んできてくれる。

 例えば、お嬢様風コーデの服とか、赤が強調されているドレスとか、何かのキャラのコスプレ衣装なのかナース服とか、ゴスロリ衣装とか、カエルのロゴが前面に押し出されたTシャツとか。

 このお店、ジャンルが幅広すぎる・・・・・

 そんなことを思いながら、とりあえず試着室に入る。

 まずは、自分で選んだ白いワンピースとセットで置いてあった青いスカートから着てみることにした。

 なんとか着れたので試着室のカーテンを開けると楓が慌てて締め直す。

 そして中に入ってきた楓は、ちゃんとできていないことを教えてくれる。ワンピースがうまく着れていないことやスカートのチャックは端に来るようにするんだとか、そんな女性なら誰もが知っていることを。

 これは前途多難であることを思い知った。

 次は楓が選んできたお嬢様風コーデの服。

 今度は楓が着せてくれた。だからこそ間違った着方はしなかったのだが、可愛すぎるよとお兄ちゃん最高という言葉が何度も飛び交う羽目になった。

「赤いドレスも着てみようよ」

「これは絶対着る機会ないって」

「そんなことないって、もしかしたら学校に超お嬢様な娘とかいるかもしれないでしょ。そういう娘が家のパーティーに呼んでくれた時に必要かもしれないから」

「そんなことないって」

「そんなことわからないでしょ。誰がいるかなんて知らないんだから」

「それはそうだけど」

 結局、結論から言うと着ることになった。駄々をこねた妹に兄として折れてやった感じに最終的にはなったのだ。

 それからも順々に試着を済ませて行った。ゴスロリの衣装の時もドレスの時と同じようなやり取りをした。

 カエルのロゴの時は俺だけじゃなく楓までもがこれは家でしか着れない感じだねと試着をすることすらなかった。

 ナース服はどうしたのかと言われれば、今のお兄ちゃんがこれを着たら犯罪臭がするからやめておこうと楓に止められた。

 それから会計を済ませるためにレジに向かった。

 なぜかカエルのロゴTシャツ以外はほぼすべて買うことになっているのだが、楓が言うには女の子は何かあっても大丈夫なようにいろいろな服を持っていて当然なんだとか。

 そんな感じで言いくるめられた俺はまさか女物の服を自分が着るためにこんなに買うことになる日が来るなんてと思いながら自分の財布からお金を出すのだった。





 服屋のお店の袋をぶら下げながら俺たちが次に向かったのは下着売り場だった。 

 さすがにこれを自分で自分のを選ぶのは恥ずかしすぎて死んじゃうと楓に言うと、

「じゃあ、お兄ちゃんはサイズの採寸だけしてもらってくれればいいから」

「採寸なんてできないぞ」

「大丈夫。私がやってあげるから」

「・・・・・わかった」

 そんなやり取りをして下着売り場に入っていった。

 こればかりはなくてもいいものには入らないので、何を言っても必要なものであることは変わりない。もう恥ずかしさを噛み潰す思いで楓に任せるしかなかった。

 俺は先に試着室に入ってカーテンを閉めて待っていると、店員にメジャーを借りてきた楓が試着室に入ってくる。

 先ほどの服屋で買ったワンピースに着替えていた俺は、それを脱ぐと楓はてきぱきと俺のバストとウエストのサイズを測る。

「お兄ちゃん、ちょっと小さい? かも?」

「そうなのか?」

「この年ならもう少しあってもいいと思うよ」

 この年になっても彼女の一人も作れていなかった俺はもちろん女性の胸を触ったことすらない。

 つまり大きさなんて見た目でしかわからない。だが、この見た目というのは自分を自分で見るとどうしても他人を見るよりも比較しにくいものだ。

「ん~、でもお兄ちゃん痩せてるしそのせいかもしれないね。カップでいうとCに届かないくらいだからCの一番小さいサイズを買えばいいと思うよ。今いろいろ持ってくるから待っててね」

「わかった」

 俺の感覚ではCは手のひらに収まるちょうどいいサイズくらいの感覚だったが、楓にとっては少し小さいらしい。兄として楓には大きくなって欲しいものだ。何とは言わないが・・・・・

 楓はかごにほぼ全色あるのではないかという量と柄の下着を持ってきた。

 楓にとっては薄いピンク色で少しフリルの付いた上下セットの下着がお薦めらしく、これを付け方を教えるという名目で試着させられた。

 そしてここでもまたこのかごいっぱいの下着をほぼすべて買うことになった。

 先にレジでこのピンクの下着だけ買って、これを今使っている下着と交換して帰ることになり、今使っている下着は大量に下着の入った袋の中におさめられた。





 それから靴を見てくることになった。

 もう時間もそれなりに経っていたので欲しい商品の要点を伝える。

 ――――雨の日でも使えて、それでいて歩きやすい靴。

 店員はお薦めを聞いて、何種類かを持ってきてくれて、その中の気に入ったものを適当に選んだ。

 今日は履いてきた靴は母が自宅に残していったものだ。

 もちろん男だった頃の靴はサイズが合わずぶかぶかで履けたものではなかったので、楓のも試してみたが今度は逆に窮屈だった。

 それでもしかしたらと試した母の靴がぴったりで今はそれを拝借している状態。

 しかし、いつまでも借りているわけにもいかないし自分に合ったものを履いた方が絶対にいいので早めに揃えてしまうことにしたのだった。

 そして選んだのがこの紺色をベースにした雨の日でも履ける運動靴だ。

 楓はもっと可愛い靴の方がいいと言ったが、俺はこれがいいと思った。それをちゃんと伝えると今回はお兄ちゃんが履くものだからと楓は一歩引いてくれた。

そんなこんなで靴屋での買い物はあっさりと幕を下ろした。





 今日はこのくらいにしようということになった。

 時刻は七時を回っていた。今日のこの二か所の買い物だけで、どうしてこんなにも女性の買い物時間がかかるのかをなんとなく理解した俺だった。

 いろいろ買ったこともありお金を節約したかった俺は、楓には申し訳ないが家まで夕食は我慢してもらうこととなった。

 帰りのバスの中では、もうソワソワすることはなかった。

 むしろ、少しくらい見られてもと言うほどの自信が生まれていた。

 そこになんだが悲しい自分もいた。

 それはきっと男だった頃には持たなかった感情だったからだろうと思う。あまりおしゃれに気を遣う方ではなかった俺は、お世辞にも見られたい恰好をしていたことがあったとは言えない。

 しかし今は、楓のセンスの力を借りて服を選び、それなりの身だしなみで外を歩いている。

 今なら見られても恥ずかしくない気がした。

 そんな怠慢が楓に伝わったのか、楓が

「お兄ちゃん、まだまだこれは序の口なんだからね。今は薄化粧すらしてないし、髪だってただ下ろしているだけだし、まだまだ可愛くなれるところはたくさん残っているんだから」

「へ、へえ~・・・・・・」

 女の子って何倍も大変なんだなと超絶に思った瞬間だった。


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