高校入学前夜
ショッピングモールから自宅に帰宅し、小一時間経ったところから舞台は始まる。
今から始まるのは俺と楓との夕食どちらがおいしいもの作れるかな対決などではなく、俺が夕食を作り楓はその手伝いをする、ただそれだけの場面だ。
ことは少し遡り、俺が夕食を作り始めようと台所に立った時、楓が俺の横に同じように立ち自分も「手伝いたいよ、お兄ちゃん」と、言ってきたのがことの発端だった。
ここで一つ、言っておかなければならないことがある。
楓は大の実験好きなのだ。
まさか一人で料理をさせたらよくわからないものができたなんて、そんなマンガのような話があっていいはずもないが、事実よくわからないものができたことがあった。
あれはもう二年ほど前になる。
楓が俺の風邪を治すために手料理を振舞ってくれたことがあった。
楓曰く、いろいろ栄養価の高いものを食べたら早く治るだろうと、ゴーヤチャンプルーの要領でいろいろ合わせて炒めたらしい。
その結果、入っているものはわかるのに、どうしてそういう味になったのか全く分からない料理ができてしまった。
もちろんおいしいはずもなく、またまずいとも形容しがたいものだったことを今でも覚えている。
初めは楓が小さくて台所に立たせるのは危ないからという理由で料理担当を自分が引き受けていたが、それがなくなった今でも一人で料理をさせないのはそう言った理由。
もちろんシンプルな料理なら楓一人でも、もう十分安心して任せられる腕前になったのだけれど、まだできないこともそれなりにあったりなかったり・・・・・・
前置きが長くなってしまったが夕食の準備を始めよう。
まず、俺はお米を研いで炊飯器にセットしスイッチオン。
その間に楓には野菜炒めのための野菜をざく切りにしてもらった。それから湯を沸かし、その間に味噌汁の具の用意。今日は豆腐とネギだ。
楓の方が終わったら、俺はそれを受け取りフライパンで炒めていく。次に楓には豆腐を切ってもらった。
そんな感じで作業を分担して坦々と進めていき、七時ちょうどにご飯が炊きあがったという知らせのアラームが鳴り響いた頃、俺たちの夕飯もあらかた出来上がった。あとはお皿に盛りつけるだけだ。
俺が盛りつけたものを楓がテーブルに運んでいき、なんだかんだで七時半頃になってようやくいただきますのできる形になった。
「いただきます」
二人で手を合わせ挨拶を済ませ、食べ始める。
「お兄ちゃん、この野菜炒めおいしいね」
「お、そうか」
「ところでお兄ちゃん、明日から高校生なわけだけど、用意とか大丈夫なの?」
「そっちこそ、明日から中学生だろ。もうできてるのか」
当然俺はまだできていなかった。持ち物とかではなく、心の余裕に持ち合わせがなかった。
「私ならちゃんとできてるけど」
「いや、俺も外面的にはできてるけど、内面的にまだちょっとできてないんだよ」
「内面的か~。でも私ほとんど小学校の時の友達と一緒だし、必要ないかな」
楓の気楽な切り替えしにがっくりする俺は中学の時は俺もそうだったなと思い返していた。だが、俺は明日から高校生なわけで、友達もたしかにいるし、なんなら幼馴染だって一緒だ。
けれど、少なからず新しい一歩の門出には緊張するものだ。
「こういうのはきっと寝てしまえば覚悟決まるものだよ。だから今日は気楽に早く寝ればいいんだよ」
楓の助言には説得力はなかったけれど、励ましにはなった。
今の言葉を鵜呑みにするわけではないが明日寝不足の顔で初登校を決めるわけにもいかないし早めに寝ることには賛同だった。
「わかった。そういうことにしておくよ」
それからも雑談をひとしきりして夕食を食べ終わり片付けを済ませた。その後テーブルにもう一度戻ってきた俺と楓はお茶を飲みつつ、雑談をまた始める。
「最近この辺で占い師を名乗る人が出るらしいんだけど、その人の助言っていうのか、災難っていうのかわからないけど、占ってもらった人が言うには百発百中で当たるらしいよ」
「それはすごいな。でもそんなに当たるんならきっと大行列なんだろ」
楓は首を横に振る。
「それがね、そうでもないらしいの。なんでも少し不気味なんだって。だからみんな怖がっちゃってあまり売れてないみたい」
「不気味って。占い師なんだから少しくらい不気味な方がそれっぽくて売れそうなのにな」
「やりすぎはよくないってことなのかもね」
楓は苦笑いを浮かべる。
俺はそんなものかなと思いながら、不気味すぎる占い師を想像してみた。
きっと顔に少ししわの入った女性で水晶片手にいろいろ聞かれて、驚かすように未来の予見をするんだろう。
「不気味って言えば、明日から楓の行く中学って立て替えてはいるけど、昔から在った学校じゃないか。それで七不思議っていうのがやっぱりあったんだけど」
「え、いきなり怖い話なの。私苦手なのに」
楓がひきつった表情になる。
俺は安心させるためにそうじゃないことを伝える。
「七不思議なのに六個しかないみたいなんだ。きっとどこかで一個不思議が途絶えたのか、もともとないのかで諦めたんだが、全部知ることができたら何かいいことがあるとかないとか」
「お兄ちゃん、よくそんなこと調べる気になったね」
「いや、何かで見たか聞いたかしたんだけど、あんまりよく覚えてないな」
そういえば、あまりよくその辺のことを覚えていない。
たぶん七不思議のことに夢中になっていて忘れてしまったんだけれど、なぜ調べ始めたのかというより、七不思議についてなぜ知ったのか覚えていないのは気になったが、覚えていないものはもうどうしようもない。
「それで、私に調べるのを引きついで欲しいなら、さすがに私も怖そうだしできないと断らせてもらうけど、ちなみにどんな不思議なの」
「いや、大したことないよ。飼育小屋でかわれていた動物たちの墓で目を閉じて会いたいと祈って待っていると合わせてもらえるとか、今はもうないけど、昔あった井戸の水が満月の夜だと赤くなるだとか、そんなのが六個あるだけ」
「いや、充分ホラーだったよ。お兄ちゃん」
「ホラーって言えば、屋上に白い服で行くと危ないとか、理由はわからないけど校舎裏にある大きな木の下で座り込むと校舎が一階分多く見えるとか」
そこで俺は楓が涙目になっていることに気が付いた。
「充分怖いって」
「悪い」
「じゃあ、なんか楽しい話して」
「そうだな。先輩の進学先が出てる一覧表の横に石碑みたいのがあるんだけど、それに手を合わせると成績が伸びるらしいぞ。あと、体育用具室って西側向いているんだけど夕方に告白すると成功する確率が上がるとか。あとは、用具室の中に魔女が使ってそうな箒があったりした」
「なにそれ。それただの笑える話じゃん」
楓は涙を拭きながら笑っていた。
「楽しく締めたいから私、七不思議の落ち思いついちゃった」
「なんだよ」
「あの学校に昔魔女が通っていた」
確かにそれなら今はもう残っていなくても不思議ではない。
でもそれは、箒から思いついたのだろうけど、室内用の箒ではなく落ち葉などをかき集めるあの箒のことを俺は言ったのだから、そもそもが似ているわけで魔女とは関係ないように思えた。
だから俺はそのことを楓に伝えた。
「でも、どれも真実味がある話ではないし、そもそも不思議話なんだから結果じゃなくて内容でしょ。だったら面白い方がいいよ」
「それもそうだな。じゃあ、あの学校に昔、魔女が通っていてその置忘れの箒があるってことにしておくか」
そんな感じに七不思議の不思議話に幕を下ろし、時刻は九時を回っていた。
俺と楓は雑談はここまでという感じで動き始め、楓から風呂に入り、その後に俺が続いた。
それからは自室で明日の忘れ物がないかを確認して目覚ましを七時にセットし、特に何もすることなく眠りに就いたのだった。




