荷物の中身
俺は重かった袋をテーブルの上に置き、中身を出す。
中には厳重そうに封のかかった箱が入っていた。
「これ開けていいの?」
「構わないわ」
俺は恐る恐る封を解いて、中身を取り出す。
箱の中には中のものを守るためのクッション材と金色に輝く器が入っていた。
器というあいまいな表現をしたのは、平らな皿ではなく飲み物を入れるような形状のものが入っていたからだ。
「これは?」
「遺跡の調査で発見されたもの、だと思うわ」
「ずいぶんとあいまいなんだね。お母さんらしくもない」
楓がそんなことを言う。
だけれど、それもそのはず。
俺たちの知る母親は、そういうところだけはこれ以上ないほどの几帳面な性格だからだ。
「それが、ちょっと不思議な話でよく分からないのよ」
「不思議な話?」
「そう。私はいつもの通り遺跡の発掘をしていたのだけれど、その時でたと思われるものなのよ。それは。だけど、資料にはそんなものの発見は記されていなかった」
「ということは」
「そう。それはあるはずのないものか、あるいは」
「ちょっと怖い話はやめてよ」
楓が頭を抱えるように耳をふさいでいた。
「そういうところは成長しても変わらないのね。少し安心した」
「それよりも、そんなもの持ってきていいのか?」
「それは問題ないわ。これを持って帰って来るのは、あなたに見てほしかったからなのよ」
「俺に?」
母さんはこくりと頷いた。
とりあえずは見てみようということで器を持って、その重さに少し驚きながらも、左右から、そして上下にも見てみて、特に何の変哲もないことを確かめる。
「何も変わったところなんてないように思うけど」
「どうしてお姉ちゃんに見てもらいたかったの?」
「それはね。これはあなたたちから電話を貰ったすぐあとに発見されたからよ」
「え、それだけ」
「まあ、根拠としては薄いけど、でも何か関係性があるような気がしてね」
それにしても、遺跡から発見されたっていうけど少しきれいすぎな気がするな・・・・・
それに、器にしては少し重すぎないか。それとも昔はこれが普通だったのか?
「母さん、これ重すぎないか?」
「え、私はそんなに重く感じなかったけれど」
これ重くないってどんな筋力だよ、と思わずツッコミそうになったけれど、首まで出かかった言葉をすんでのところで飲み込んで、代わりに
「もう一度持ってみてよ」
「別にいいわよ」
そう言って母さんはそれを簡単に持ち上げる。
それを見ていた楓も持ち上げてみて
「あんまり重く感じないけどな~」
「そ、そうなの。俺だけ?」
俺はひとりでにショックを受けていた。
器が二人の手から離れ、テーブルの真ん中に置かれる。
俺はもう一度持ってみるも重さは変わらなかった。
「・・・・・ん?」
俺は器をテーブルに置いて上から俺を見た時、器の底の方に紅くきらめくものを見た気がして、まじまじと見つめ直す。
するとそこには出るはずのないもの、湧くはずのないところから紅い液体が溜まっていく。
「うわ~~」
俺は思わず声をあげた。
「どうしたの、お姉ちゃん」
「変な液体が・・・・」
「え!?」
母さんは急いで器の中を覗き込んで、すぐさま怪訝な表情になる。
「これは・・・・・」
母さんは俺たちのことをみながら、
「二人とも離れて」
「・・・・!?」
声が、いや、身体が動かない。
「・・・・・な。なんで、動けない」
楓は苦しそうに声をあげる。
「・・・・・これはいったい・・・」
「ふたりとも動いちゃだめよ」
「お、おにい、ちゃん?」
俺の動かないはずの口が勝手に声を発する。
動かないはずの手がゆっくりと、確実に器を掴む。
・・・・・・・・さあ、飲みなさい・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・こぼしてはダメ・・・・・・・・・・・・
脳に、頭の中に反響するように、直接声が聞こえる。
「・・・・ん」
俺はゆっくりと器に唇が触れ、ゆっくりと傾けていく。
中に入った紅い液体がドロッとしているように思えば、一変してサラッと流れてくるような、そんな不思議な液体。
紅い液体は飲みたくもない俺の唇に触れ、ゆっくりと口の中に入ってくる。
飲む気なんて全くないのに身体がいうことを聞かない。
「・・・んんっ・・・・・」
俺は涙目になりながらも、それを一滴も残さず飲み干してしまった。
「は、あっ・・・・」
・・・ドクン。
心臓の音がうるさい。
頭の芯が熱くなるような感覚。
・・・・・・ドクンっ。ドクン・・・
鼓動が早くなって、身体が熱くなる。
顔が緩んでいるのが分かる。赤く火照っているのもわかる。
「こ、れは・・・あの時と・・・・・」
俺はそう思っている思考を途中で止めることしかできなかった。
「瑞樹!!」
「お兄ちゃんっ」
遠くで楓と母さんの呼ぶ声が聞こえた。
よかった、動けるようになったんだな・・・・・
そう思ったのを最後に俺の意識は途絶えた。




