帰宅者
第三章突入です!
「ただいま~~」
その日の朝、突然の帰宅者によって俺たちの生活は慌ただしく動き出した。
俺と楓はその声を聴くなり、玄関に足を運んだ。
帰宅者は俺たちの顔を見るなり優しく微笑んで、再度
「ただいま」
と言った。
俺たちも揃ってそれに応える。
「おかえり」
それから続けて楓が、
「いきなり帰って来るなんてびっくりしたよ~」
「連絡するの忘れてたわ。でもこの月くらいには一度帰るって言ったじゃない」
「そうだっけ?」
そう言われて俺たちは記憶を遡り・・・・・・・
・・・・・・そういえばそんな電話をしたと聞いたような。
「あったかも?」
「言ったからには帰らないとね」
「早すぎるって。まだ夏休み前だよ」
「あら、そうなの?」
キョトンとする帰宅者。
それもすぐに元に戻って、持ち帰った荷物を持ち、移動を始めた。
「立ち話もなんだから、あなたたちの話でも聞きながらじっくりくつろぎましょ」
「それもそうだね」
「荷物持つよ」
楓はそれに頷き、俺は荷物を持ってリビングに移動した。
時刻は少し遡り、帰宅者が帰宅する前。
七月十五日。
月曜日。
海の日。
午前九時を回ったところ。
俺は休日ということもあり少し遅めの朝食をとっていた。
俺も楓も一週間もすれば夏休みだが、その前に中間テストがある。
今日は一緒にテスト勉強の予定だ。
「お兄ちゃん、今日はいろいろ教えてね」
「俺もそんなに成績良いわけじゃないよ」
「そんなことないよ。だってあの高校に入れたんだから」
「そうなのかな~」
俺があいまいな返事をすると楓はまたまた~といった感じでにやにや顔だ。
百合の淵学園。
元は女学園だったことは話したと思うけれど、それにもう一つ。お嬢様学校だったことを付け加えておきたい。
確かに偏差値的にずば抜けて高いとかそういうわけではなく、気品とか品格などが高いといった感じではあるものの、それに見合う偏差値である。当然低いというわけでもあるまい。
それは今も少なからず節々に残っている。
だからテスト勉強しないとまずいわけなんだが・・・・・・・
「できる範囲で頑張るよ」
「は~い」
楓は明るく返事をした。
そして、俺が朝食を済ませたころに事件は起こった。
突然の帰宅者の登場である。
リビングまで戻ってきた俺たち。
楓はテーブルの上に残っていたお皿を素早く片付け台所に運んでいく。
俺は空いたスペースに食べ物っぽい荷物を置く。重いものは床に。
楓は皿を水に浸して戻ってきて席に着いた。
俺も席に着いて、帰宅者は楓の隣に座った。
「お母さん、何買ってきたの?」
そう、帰宅者とは俺たちの母親である。
「みんなにお土産」
「この重いものはなんだ?」
「それはちょっと変わったものよ。まあ、開けてみれば分かるわ」
「これは?」
楓はテーブルの上にある紙包みされた箱を指した。
「これはあっちの饅頭みたいなものね。結構おいしいのよ」
「へえ~」
そんな感じで一通り荷物の話をし終わり、ひと時の沈黙。
母さんの一言でこの場の沈黙は打ち切られた。
「それで、今度はあなたたちのことを聞きましょうか」
「俺たちの?」
「そう。瑞樹と楓の、ね」
そう言って俺と楓を交互にみた。
「瑞樹がこんなに美少女になっているなんて驚いたけど、世の中いろいろあるわよね~」
「お、俺のことわかるのか?」
「そりゃあ、分かるわよ。だって自分のお腹を痛くして産んだ子だもの」
母さんは少し感慨深そうに遠くを見つめた。
俺は驚きつつも一安心して安堵していたが、楓はちょっとショックそうだ。
「さすがお母さんだね。私なんて一瞬誰だかわからなかったよ」
それを聞いて、そういうことかと納得した。
楓は一番最初、疑いに疑っていたからな。それもしょうがない。
「私が分かったのはそれだけじゃないんだよ」
「それだけじゃない?」
「素振りとか話し方とか、その辺見たり聞いたりしてるとなんとなくわかるものよ」
それを聞いた俺たちは驚きを隠しきれなかった。
「そんなに変だった?」
「変なんてことはないし、それを直すことも今の時代しない方が自然だと思うけれど座り方とか、スカートならなおさら、気にした方がいいかもね」
「は・・・・・そういうこと」
楓はわかったようだけれど、俺にはわからない。
「例えば」
母さんはそう言って、俺の足の間、股のところに足を差し込んでみたり、スカートのしわを指摘してみたりした。
「こういうのは気にした方がいいかな」
「・・・・・」
ちょっと下を見ながら上目遣いに楓をチラッと見てみると、どうやら怒ってらっしゃるみたいだ。
いかに機嫌を直していただこうか・・・・・・
「はい・・・・・」
とりあえず返事をすることにした。
「お姉ちゃん」
「お姉ちゃん? そんな風に呼ばせているの」
「それは違います・・・」
俺は否定を返す。
断じて違います。
これは楓の独断ですと言う感じで、俺は母さんに横を見るように促す。
「ああ、なるほど。今もなおか。仲良しで何よりだ」
母さんは楓の表情を見てすべてを悟ったようだ。
そんな母さんは、この流れを打ち切るように、俺に助け船を差し出すように、
「この話はこの辺にしておいて、その袋の中身を見てみてよ」
そう俺の足元、テーブルの横、重かった袋を指し示すのだった。




