神樹と生命
桜田は浮遊していた。
見る限りにおいて自然体で、いつもの不敵な笑みを携えながら、話に入ってきた桜田は続けてこう言った。
「僕は悪魔王なんて最初から見えていないのさ。僕が見ていたのは最初から魔力の塊で中にコアを有した巨体だ。もちろん声は聞こえた。けれど、僕は反対。マイナスだからそっちは見えないのさ」
「ほう、貴様は神樹から神受した者か。ならばこそ、俺に恐れもなく近づけたはずだ」
「桜田? 一体どういうこと」
私は桜田が何を言っているのかわからなかった。だからその説明を願った。
「神樹という次元の狭間に咲く大木があるんだ。僕はそこから来た。神樹は因果を監視するシステムの一つで過去から未来に至るまで、そのすべてを知っているとされている」
「神樹が動いたか。確かにあの樹ならば俺の分解も通用しないだろう。何せ、朽ちぬのだからな」
「そう、神受した僕も同じ。あの樹はこの世の理から外れるためマイナス。この世はすべてが変化しているが、神樹は永遠を同じくするためにマイナスに身を置く」
「だが、貴様では俺に指一本触れられない」
「そうかもしれないね」
桜田はあっさり悪魔王の言葉を認めた。
同時に、懐から筆を取り出した。
「瑞樹ちゃんにこれを」
「筆?」
私は筆を受け取った。が、桜田の意図が読めない・・・・・・
「瑞樹ちゃんは最初の、僕が壊したあの箒を覚えているかな。実はあれも神樹の一部だったんだよ。たぶんリリスが理に干渉されないために使ったものなのだろうが、神授していない者には加工はおろか、壊すこともできないからね。そして、その破片を加工して作ったのが、この筆だ。今の瑞樹ちゃんならうまく使いこなせるだろう」
「いろいろすごいこと言ってるのはわかるんだけど、要はこの筆がキーってことよね。魔導書解析」
「すでに」
なんてすごい便利なんでしょう!
とか内心思いつつ、結果を待った。
「完了。魔術的作用は確認できませんでした。神樹の魔力『生命』の吸収に成功。魔神アエーシマの魔女装束に生命の魔力を編み込みますか?」
「お願い」
「ソナタも数奇な運命に身を置いているのだな。気づいているだろう、片足がマイナスに踏み込んでいることを。自身の身体にも生命を宿らせれば神樹とそやつと共にマイナスにいけるぞ」
「私はマイナスにはいかないよ。だって私の魔術はそうじゃないから」
創造、元は錬金術。
私には他人に勝てるほどの頭脳はなく、魔術で強化できる身体を動かす方があっていた。だからいつも刀を携え、輪花さんを見習い、叢雨から多くを吸収した。
魔神になって魔力が増え、魔術の幅が広がったことで、今までは魔術で応戦していたけれど、しかし本来の戦い方ができるとなれば、もう迷うこともない。
私は筆を握る。
「再構築。マスターに最適を算出。完了」
魔導書が私の意志を読み取り、筆を刀に造り変えた。
「この刀には生命の魔力が真に宿っている」
だから、魂を宿し刀へと造り変えた。
これは、生命を解析したときに生きる力を与えることができると分かったから。私は彼女を不完全に救ってしまった。リリスの計画では私という肉体を持って完全としていたから。彼女は私のためにチャンスを放り出したのだ。
後悔すべきことじゃないのはわかっていた。でもしないことはできなかった。
しかし、今ここに、生命の魔力がある。敵を倒すために桜田が恵んでくれた力だけれど、私は仲間のために、いつもともに戦ってくれた戦友のために、この筆を使う。
「リリン。その状態でも話せるの?」
「ええ、私と瑞樹ちゃんは魂で繋がっているもの。・・・・・・お礼は、言わないからね」
「私がしたかっただけだから、いらないよ。それに」
お礼なら私の方が足りないくらいだ。
「今でも一緒に戦ってくれるかな」
「当然よ!」
「ありがとう」
お礼を言ったところで桜田が不意に口を開いた。
「瑞樹ちゃんは天然ですごいことをするよね。それは神の手先なら天使、武器なら宝具といった代物だよ。僕の筆が元とはいえ、あきれちゃうよ。ああ、輪花さんは結界の表に帰ってもらったから、もう大暴れしても平気だよ。僕は終わるまで下にいるから」
「桜田。ありがとう」
「僕の方こそ、箒の時のお礼をしていない。それに、僕と瑞樹ちゃんの間にお礼は不要だろ」
「なにそれ」
「ソナタは、いや、俺も殺す気でいくとしよう」
そう言って悪魔王は殺気を放ち始めた。
桜田はすっと地面に戻っていき、少しの距離を取っている。
「悪魔王、決着をつけよう」
私は刀を握る手に力を込めるのだった。
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