悪魔王の強攻 その2
なんて早さなの、とリリンは思っていた。決して口には出さないけれど、俺にはその思いが伝わってくる。
リリンがそう思うのも無理はなく、先の槍が見るものすべてをくぎづけにするような迫力と速さで作り出されている。
今悪魔王の四本腕にはそれぞれ槍が握られていた。
・・・・・・もしかして今編み出しているの。
・・・・・・新しく作っているってこと?
・・・・・・わからないけど、前に比べて早すぎるわ。これじゃあ、同じ手は使えない。
「さあ、これをどう止める」
「くっ・・・・・・」
思わず歯噛みした。良案がない、というか任せたリリンが行き詰っている。
同じものを作れないかともちょっと思ったけれど、見ただけではそれもできない。
そうしている間にも一本目の槍が投げられた。
そして逆側の手に持っている槍も投げられる。
「まず二本か」
「これでは前の手は使えまい。さあ、嫁よ。さらなる天上に手を伸ばせ」
「??」
最後の部分はよくわからなかったけれど、これをどうにかするには魔神になったことで上がった魔力を使うしか道はない。
「魔導書の中に何かいい魔術はないの?」
「敵対魔術を相殺できるような魔術はありません」
「無いんだ・・・・・・」
無いらしい・・・・・・どうしよ・・・・・・どうしよう。
「代わりに、転移を提案いたします」
「すごい便利そうな単語出てきた・・・・・・それで、リスクは?」
「身体への負荷が絶大です」
「まあいっか。よし、お願い」
「了解しました」
その言葉の後、俺は悪魔王の後ろに回り込んでいた。
悪魔王は俺が視界から消えたことで、たじろぐかと思いきや、そんなそぶりは一切なく俺の方へと向き直った。
「転移か」
「う、ぐうううううう・・・・・・ヒュー、フー」
身体への負荷が大きいとは言ってたけど、ここまでとは。まるで骨が、肉が、外から圧迫されていろんなものが外に出そうだ。それに痛みもすごい。
「ふむ、して、それは、どうするのだ」
悪魔王は指で俺のことを指す。
「えっ」
俺は右腹部を見て青ざめた。
だってそこには何もなかったから。あるべきはずのものが何も。
そして悪魔王が槍を一本も所持していないことに気が付いた。
「いつ、のまに・・・」
「転移した直後だ。転移とは瞬間的に移動することではなく、先に魔術的出口を用意して、自分を分解し転移位置で再構築をする。錬金術を要するその魔導書を持つ、ソナタには簡単に行えることかもしれぬが、その魔導書は俺が作ったものだ。ならば、俺が何の策もなく、出し抜かれるわけなかろう」
確かにその通りだ。転移するだけでは足りないのはわかった。そして、この傷はたぶん槍で負ったものなのも想像がつく。けれど、超加速的に行われている一連の動きの中で、そんな隙があったのか・・・・・・
「わからぬか。俺の嫁であるならば、いや言うまでもなく、もう傷はないぞ。答えは簡単だ。嫁は魔神にはなったが、それは位の話で、その実を含め身も未だ人間の領域に他ならない。それでは力は使いこなせないぞ。して、もう一度言おう。神の天上に手を伸ばせ、と」
「悪魔王、お前の目的は、私を連れていくことではないのか」
「その通りだ」
「なら、なぜ私を強くしようなどと」
「簡単だ。俺は自分が触れられる嫁が欲しいのだ。今までの者は心が逝ってしまったからな。だが、魔神にまでなったソナタになら、あるいは」
「つまり、今の私じゃ悪魔王は触れられないってこと?」
「いや、その傷も見たところ魔力で治した影響だろうが、魔神の肉体に置き換わっている。少しいたぶってやるのもいいかもしれないな」
「いや、私マゾじゃないんで・・・・・・それにすでに相当ひどいことしてるよ」
話をして、いくつかはっきりしたことがあった。それは、始めは遊ばれているのではと感じたこの攻撃も意味があってのことだったということ。また、殺す気はなさそうだということ。殺されかけた気はするけど・・・・・・
「傷も治ったことだ。再開しよう」
そう言って、悪魔王はその四本の手に今度は槍ではなく剣を携えた。
刹那、悪魔王が斬りかかってくる。
俺も慌てて両手に魔力の刀を生み出し応戦したが、二本足りない。背中から切りつけられる形になったが、その剣は俺が纏う装束によって止められた。
「なかなか厚いな」
「マスターの魔女装束を再構成。失敗しました」
・・・どうやら直らないらしい。よく見ると刀も欠けていた。いや、くぼみができていた。
「力負けしたようには思えなかったけど。なるほどね。これが触れない理由ってわけね、魔導書、この刀を解析して」
「リリン様、了解しました。・・・・・・刀の解析結果より、分解の魔力を確認」
そう魔導書は言うのだった。
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