大罪は俺の嫁 後編
俺は剣が雨のように飛来する中で、かろうじて避け続けていた。しかし、そんなことを頑張っていても剣が、腕を、足を、わき腹を掠め、切り傷を作っていく。
その都度、リリンが回復魔術をかけてくれているが、魔力も無尽蔵ではない。
このままでは・・・・・・
そんな感じで冷や汗を額に浮かべながら、剣舞を踊っていると、不意に魔導書が
「マスター、この剣に触れていただけますか?」
と、そんなことを言ってきた。
剣に触れる。
簡単に言うけれど、高速で飛来する剣は無数に存在し、その剣はすべて魔力でできている。触れるところを間違えば俺の手はズタズタに、いや形があれば御の字だろう。
それが嫌なら剣の持ち手、握りの部分を掴むしかない。
「い、いくぞ・・・・・・」
ごくりっと生唾を飲み込み、次に飛来した剣の掴みかかる。
まっすぐに飛来する剣。俺が少し避ければわき腹辺りを掠めることだろう。そして避け過ぎれば、その左斜め後ろから追いかけるように飛来する剣に身体を貫かれてしまう。
最少の動きで避け続けていた俺の目には、一寸先の軌道が分かるようになってきていた。
動体視力がすぐれているスポーツ選手は成長速度が速いなんて言われたりするけれど、俺は今それを身を以て体験していた。
「え・・・・・・」
握りを掴めたことには掴めたが、一瞬の浮遊感の後、俺は剣もろとも後ろに飛ばされていく。
「剣との接触を確認。接触面より解析を開始。・・・・・・完了。魔術錬金術により魔術の書き換えを開始、完了。魔術錬金術を再度実行。刀への物質変換、形状変化を行います。・・・・・・完了しました。刀に付与された魔術の強制停止を実行。マスターには最大魔力での防御魔術の行使を推奨します。それでは実行します」
「え、う。うん? リリン手助け!」
途中から魔導書のしていることの理解が追い付かなくなった俺だが、最後の所だけはわかった。ということで、リリンに手助けと叫んでいた。いやいや、何が”ということ”なのかわからないが、すべてをまとめてということだと、ちょっと考えてわかった。
魔導書が実行したことによって剣の動きが止まった。
それによって常に後ろから追ってきていた剣の数々が俺をハチの巣にしたわけだが、最大魔力での防御魔術は伊達ではなかった。
幾本もの剣をいなし、受け止め、防ぎ切った。
ただ、魔力はもう残り少なかった。
今俺の手には魔力でできた刀が一本と少しの魔力しか残っていないわけだった。
「ほう。やはり俺が作っただけあって魔導書はなかなかやるな。だが、嫁はもの足りない。でなければ次で終わりぞ」
「くっ・・・・・・」
防ぎ切ったはずの剣はいつの間にか悪魔王の背後に再度準備されていた。
「マスター、私の1ページを新たに綴ってくださいますか?」
「え、あ~・・・このピンチを打破できるなら?」
「可能です。マスターの承認を確認。実行します、よろしいですか?」
「うん」
・・・・・・え、ちょっ、そんな簡単に!?
・・・・・・え、何が・・・・・・
そこで俺の意識が暗闇に包まれた。
いったいどのくらい経ったのか、わからないが魔導書の声が聞こえる。
「前マスターの魔力の分解完了。魔人サキュバスの因子を構築。色欲の魔導書の作り手、悪魔王の魔力を確認。続いて解析を開始。さらに、前マスターが構築した魔術の所有権をすべて魔導書並びに現マスターに書き換え、譲渡を開始。・・・・・・完了。現マスター色欲の魔女を魔人への昇格を実行。魔力量の上昇を確認・・・・・・・・・・・・完了。さらに、悪魔王の魔力の解析結果より神の因子を構築。・・・・・・失敗。錬金術により悪魔王の魔力を賢者の石に構築。・・・・・・成功。錬金術によい賢者の石をマスターと融合。・・・・・・成功しました。さらに、魔人因子と賢者の石を触媒に神の因子を作成、構築。・・・・・・成功。これより、マスターを魔人サキュバスから魔神アエーシマへの進化を開始。・・・・・・魔力量の再度上昇を確認。そして、マスターと魂を同じくするリリンへの魔力貯蓄、操作、並びに魔術知識の共有を申請。・・・承認を確認。リリンの魂の強化を確認。・・・すべて完了しました。魔神アエーシマへの進化完了しました」
「・・・・・・」
どうやら何かとんでもないことが行われてしまったようだ。
・・・・・・はぁ~~。そらそうよ、魔導書の1ページに自分を記すなんて、しかも確認をされるなんてとんでもないことなのよ。私が魔女になってもできない・・・・・・もないかもしれないけど、それほど大変なことなのよ。
・・・・・・確かに、それは大変だ。でも俺は新魔術かと思って
・・・・・・そのくらいで確認なんてされないって! 大体瑞樹ちゃんは私より魔女関連に疎いんだから聞いてくれても。
・・・・・・悪かったよ。でももう完了しちゃったし。
・・・・・・はあああ、そうね。ごめんなさい。今はこの状況を打破しないとよね。
「マスター。お目覚めですか」
「うん。うん・・・なんか、肌を露出するよりエッチになってない?」
目を開けて姿を確認した。見える範囲だと、髪はまっすぐ下ろされていて色も変わらず黒。身体には手と顔以外にタイツ生地のようなフィット感のある黒い薄布が履かされている。服自体は以前の魔女装束がゴージャスになった感じだ。そして、下を見ていたことで頭に以前にはなかった重さを感じて手で触ってみると
「羊みたいな角が・・・・・・」
生えていた。また、背中にはサキュバスの名残のように翼が生えているし、重量感を感じさせるデザインの尻尾もあった。
「これ、何か邪魔だね」
俺が苦笑い気味に言うと、
「魔術錬金術により、身体の一部を変化させます」
そう魔導書が言って、角と翼と尻尾が消えてしまった。
初めからそれでよくないとも思ったけれど、たぶん進化後そのままの姿だったんだろうと思い、何も言わないことにした。




