助ける者と助かる者 後編
桜田はこういう。
俺を女にすることで助けるのだと。そう言う選択肢もあるのだと。
だから俺は、俺にもわかるように根掘り葉掘り聞かないといけない。
「俺が戻るにはリリンを見捨てるだって?」
「そう、リリンを助けて、瑞樹ちゃんがもとに戻ると言うのは成立しない。だって君の言う助けるは、彼女の気持ちを汲み取るということではないだろう?」
「そ、それは・・・・・・」
確かに俺は自分の意志でリリンを助け、また魂を生かした。そう言うところを桜田は言っているんだと思うし、俺も否定はできない。
「で、でも、絶対ないなんて」
桜田は俺の言葉を遮るように言う。
「瑞樹ちゃん、この世界は君が元いた世界とは違うんだ。パラレルワールドの一つとでも言えばわかりやすいかな。ただ、今回は分岐した世界ではなく、コピーされた世界という表し方が正しいだろう」
「桜田は何を言って・・・・・・」
「このコピーされた世界の出来事は、元いた君の男だった世界へは引き継ぐことはできないんだ。だから、瑞樹ちゃんが男に戻る選択をするならば、この世界は消えることになる」
「それは、死を意味するってこと?」
「そうじゃない。あるべき形に戻るだけで、僕たちの思いも残ることはない。主軸からの分岐だったならば、思いは残ったかもしれないけどね。何しろ、ここはリリスの魔術が干渉し、瑞樹ちゃんが女の子になったという特異点のルート、ありえない変異体が生まれたようなものだ。それが無くなっても元に吸収されることはないよ」
「じゃ、じゃあ、俺が女になることを選んだらどうなるんだよ」
「どうにかなるわけではないという表し方が一番遠からずだろう。今の日常が続いて、リリンも助かる、そんなところだ」
「・・・・・・そんなの」
「今選ぶ必要はないよ。今日はそれが目的ではないからね」
「目的?」
「そう、僕の今日の目的は瑞樹ちゃんに今の説明をすること。瑞樹ちゃんがどこまで気づいているかの確認とでも言えばいいのかもしれないけれど、これから数日後にリリスと最終決戦をすることになる。その時に今の説明をされて、動揺されても困るからね」
「確かに動揺するとは思うけれど、そんなに?」
「言っただろう、リリスはこの世界を生み出した元凶とでもいうべき存在だ。その目的はどうあれ、最後に狙われるのは瑞樹ちゃんだろうからね。だから、僕は君を最終兵器にしたと言っても過言ではないよ」
「えっと、その、さっきから言っている最終兵器って何?」
ちょっと不穏当な響きだったので聞くのをためらっていたが、聞かずに済むわけはないと思ったので早めに聞いてしまうことにした。
「リリスとの力勝負になっても唯一対抗できる存在」
桜田は、もう棒読みかってくらい淡々とそんな恐ろしいことを平然と言った。
「それが俺?」
「それが瑞樹ちゃん」
「まじで?」
「まぎれもなく」
「そんなことができるとは思えないよ」
「今までの経験値を生かして」
「・・・・・・」
これは何を言ってもダメな感じなので、そのことについては諦めることにしよう。
というか、さすがに夜も更けてきて季節も季節だし、寒い。
早く帰りたい・・・・・・
「そうだね。そろそろ帰ろうか」
「・・・・・・うん」
なんでわかった!? というのはもはやいう気にもなれなかった。
後日。
朝起きた俺は、女子制服に身を包み、登校の用意をしていた。
男に戻ることを目標に頑張ってきたわけだから、そう簡単にあきらめたくなんてないけれど。夜な夜な、よくよく考えてみると、そう変わったこともないというか、むしろ人気者になっていることに気づく。
これでいいとは当然思わなかったが、得てして困ることも思いつかないのだった。
今となっては、そこにこだわる必要が思い当たらない。というか、考えると迷走してしまう。
「おはよう」
「おはよう、お姉ちゃん」
楓の顔を見て、昨日のことを話す必要があるだろうが、それは今日の夕方にしよう。
「お姉ちゃん、何か悩み事?」
「え、なんで?」
「疲れた顔してるよ。そういう時は少し、明るめのメイクで整えてあげないと。こっちきて」
俺は楓に手を引かれて部屋まで行き、軽いメイクを施される。
「へぇ~、変わるものだね」
「もっとお姉ちゃんは周りの視線を意識しないと。あかねさんに見放されちゃうよ?」
「そ、そんなことないでしょ・・・・・・」
そう言いながら少し心配になった俺は静かに気を付けようと誓うのだった。
補足)
パラレルワールドの話が分かりにくいかなと思うのでここで捕捉します。(絵が書ければわかりやすいのにw)
瑞樹ちゃんが男に戻る選択をした場合。
樹形図を思い描いてもらえればわかりやすいと思うのですが、枝の主軸から逸れ、行き止まりにたどり着いてしまうイメージです。
未来にはいろんな可能性があって、いろいろ選択しながら生きていると思いますが、そのすべてに if がある、消える道もあれば続く道もある、そんな話になっています。




