⑤(完)
未だ継続中の勇者と私の旅路だが、未だ「水晶玉」の中の本物の聖女様についても触れておこう。
彼女は「水晶玉」の中、聖女に成り代わった私と勇者様の旅を夢に見ていた。
思いのまま描かれる夢の情景。彼女の気に入った「名場面」を何度もリフレイン。
いつ迄も幸せに浸る半面、日常の細かな作業とか煩わしい苦労はカット。私に押し付けている訳で、実に美味しい思いをしていると思わざる負えない。
まぁ、彼女は彼女で教会にいた頃は、もの凄く抑圧的な生き方を強いられていたようだ。時にはこういう『夢』を見せてあげても良いのだろう。
「水晶玉」は依然私のローブの懐の中だが、大分慣れて活発に身動きするようになった女子同士のスキンシップの最中、1度ポロリと地面に放り出してしまうことがあった。
透明な「水晶玉」には、内部の一糸まとわぬ彼女の姿が浮かび上がっている。私とスキンシップをしていた女性陣も、同室していた男性陣も皆がそれを注目する。
「あ、あ……」どう言い訳をしたものか。硬直する私。
そんな私を尻目に一行は、
「へぇ。綺麗~」潤んだ眼を丸くして水晶玉を覗き込むのが、さっきまで私にくすぐられて「聖女ちゃんの指先マジ尊いよ~」とアンアン悶えていた女盗賊。
「ほうほう、『聖女』様はこうやって魔法具に『奇跡』の力を蓄えているんだね。これは女神様の姿の投影かな」『分析』するのは良いが、見事に見当違いをしてくれてる魔法使い。
同じ部屋にいた勇者様はと言えば、水晶玉の『本物』と私の姿を見比べて「へぇ、水晶の中のこの人って……。聖女ちゃんとそっくりだなぁ」
「えっ、そ、そんな事ないですよ。全然違います」バレては不味いので慌てて否定する私。かえってわざとらしかったか。
「もう否定しても駄目だよ。顔のつくりも全く同じ。それに見てみなよ、ほらこの人裸じゃん」
「恥ずかしいこと言わないでください!」
勇者様は、なおも水晶玉の『本物』の身体をじろじろ見やり「こんなに胸もぺったんこ。防具を着た聖女ちゃんと体つきがそっくり」そんな恥ずかしい事を言ってのける。「そっか、自分と瓜二つの女神様が裸なのが恥ずかしくて、聖女ちゃんは『水晶玉』を隠してたんだね」なんて無邪気に言われるのだ、この天然勇者様は。
いや、気づけよ! 「瓜二つ」じゃなくて「同一人物」だって!
「そ、そうなんです。だってこんなの見せるの恥ずかしいじゃないですか。だから今まで隠してたんです」私はそんな言い訳をして、何とか窮地を乗り越えるのであった。
本物の聖女様は、今の私達の寸劇を果たしてどう捉えているのやら、水晶玉の中で黙して薄っすら笑みを浮かべるのみだった。
こんな感じの珍道中ですが、私たちの旅はもうしばらくの間続きそうです。
と言うか魔族の領土の本拠地。私の本来の身体のある場所に辿り着くのが、まさに旅の終着点なわけで。そこに至った時、私はどうすれば良いのか。私の正体を知った勇者様にどんな顔見せれば良いのか。今から頭を悩ませています。
その辺りについてはおいおい考えていきたいなと思います。
今はまぁ、勇者様に寄り添い、女の子の生き方を愉しんでみたいと望むのです。
ここまで読んでくださった方ありがとうございました。