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こうして聖女に成り代わった私と、『勇者』一行との奇妙な旅が始まった。
私は『魔族』の側の「手の内」は全てお見通しだから、「ああ、どうせこのタイミングで奴らが策略を仕掛けて来るだろうな」と云った時を見定めると、勇者一行に
「この先に邪悪な気配が濃厚に漂っています」
「悪しき予感がします。皆様警戒を」
などと、それとなく呼びかけるのであった。そして案の定それは的中。
『魔族』の仕掛けた戦術の裏をかき、勇者一行は常に優位に戦闘を進められた。
パーティーのメンバーたちは、それを本物の『聖女』様の『お告げ』と思い込み、私のパーティー内での信用は益々上がった。
最初は後から加入しておいて勇者にアプローチを続ける私に、決して良い顔を見せなかったパーティーの女たちとも、徐々に打ち解けていった。
女盗賊などは、隙を窺っては決まって私の背後からスキンシップを仕掛けてきた。
「ひゃうっ」
今日もローブの上から胸を抑えられ(「掴む」程はない)悶声を出す私。
「もうやめてくださいよう」涙声で苦情を言う私に対して女盗賊は、
「聖女様の『ご利益』に預かりました~」などと振り向いてベロを出すのだった。
いや、君。気づいてないだろうけど、魔王にダイレクトタッチ決めた訳だよ。
追いかけようにも今の私は訳あって激しい身動きはとれない。
その、あれだ。ローブの下、絶えず直に空気に晒された素肌がスースーする。
だってあの時の寝室の密会からなし崩し的にパーティーに加入した私。
下着身につけてないままなんだよ! 替えの下着の準備もないまま旅に加わっちゃったんだよ。
こういうのって、女の子の世界では同性に相談して、余ってる下着を融通してもらうとかあるのかも知れない。
今まで魔王だった私は恥ずかしくてなかなか切り出せない。
町に寄った時だって、買い物はパーティーの男衆がまとめて引き受けているから、「何か必要なものあるか」と聞かれても、初心な私はどうしても言い出せないのだった。
薄布ローブ1枚のみでの、旅を継続する私。ちょうど気温の移り変わりが激しい時期だ。寒い日は肌の感覚が鋭敏になって内側で擦れた部分がキリリと傷んだり。逆にポカポカ陽気でほんわか温められたり。女の子のデリケートな肌を存分に翻弄させられた。
徒歩での移動の最中も、私は絶えずうつむき加減で、「裾」に注意を払い続け、歩く時も摺り足気味に、裾が過剰に捲り上がらない様に注意するのだった。
そんな「下着問題」が続いた2週間目。
とあるダンジョンで見つけた伝説の装備品。古の聖職者が装着したという、加護の力が籠められた聖なる防具。
宝箱を開けた女盗賊が「ひょい」と摘み上げたその防具の様相は、肩の辺りに申し訳程度に金属アーマーが付いている他は、本当ただの布地だった。
全身にフィットしボディラインを強調する、レオタードの様な軽僧衣。
というかレオタードそのものだ。
私は「絶対に覗かないでくださいね」と勇者たちに厳重に念押し。物陰に隠れて装備した。
着ていたローブを脱ぎ捨てる。ダンジョンの奥地で、白い裸身を露わにする私。
良いか。誰も来るなよ。勇者もモンスターも、絶対に来るなよ。幸いこの時ばかりは世界は空気を読んでくれた。
私は裸のままかがみ込むと、軽僧衣の足口の部分を広げ、それぞれの口に華奢な両脚を通した。
そのまま布地をたくし上げて、下半身に布地をフィットさせる。タイトな布地に腰回りを包みこまれる感覚に、これだけで身も心もキュッとなってしまう。
勿論このままじゃトップレスなわけで、ちゃんと全身着こなさなければならない。私は伸縮性のある布地を肩の上まで引張り上げる。ノースリーブの肩口に、それぞれ腕を通す。襟ぐりの周りを調整して、綺麗に整えた。
全身に伝わる。タイトな感覚。レオタード越し浮かび上がる、体のライン。
薄い水色をした新しい防具を装備した私は、物陰から顔を出した。
私の新たな姿を見て、パーティーのみんなが歓声を上げる。
「ひょぉ」
「ひゅーひゅー」
「や~ん、可愛いぃぃ」
「聖女ちゃん。マジ聖女~~。素敵いいい」
対する私は歓声をどう受けたら良いのか分からず、ただもじもじ。
こういう衣装って私自身男目線で「エッチ」とか「いやらしい」って考えるのが普通だったから、女性陣から「可愛い」「素敵」って言われるのが私には良く分からない感覚だった……。ちょっと複雑な気分。
仲間の武道家の子が「ちょっとお尻の方が食い込んでるね」って指摘して私の背後に回り込み、お尻の布地を引っ張って綺麗に調整してくれた。(鏡がなくて自分では微細な調整が出来なかったのだ)
本来こういうフィットするタイプの衣装も、下にインナーとかタイツとか履くものだろう。なのに元々ノーパンだった私は、今もなおレオタード直穿きなのだ。
胸の先端が擦り付けられてローブの時よりチクチクした。きつく締め付けられてアソコもじんわりと湿った。、
というか胸の痛みって先端部だけだと思っていたけど、布で締め付けられた乳房全体がキリキリ痛む。
そうか。本来のこの娘も、今は残念なペチャパイだけども、乙女の乳房隆起の時を迎えているんだな。そんな事を思った。
身体のラインを表に晒す羞恥に流石に耐えかねて、結局私はこの装備の上から従来のローブを羽織って活動することにした。
これには男性陣も女性陣もガッカリそうな顔。
下着問題は一応これで解消されたのだが、ただ1つ問題が。
ノーパン露出の心配が無くなったことでやや活発になった私。絶えず前かがみで歩かなくても良くなって、気分も大分楽に。
開放的になり、時に前線に出て杖を振る肉弾戦に及ぶ事もあった。
そんな事をしていては自然とローブもめくれ上がる。
大胆に捲れ上がった裾から、レオタードの股、お尻の部分がチラリと覗く。
……その姿、凄く扇情的だった。
こういう「チラリズム」的な露出は、男の好奇心を嫌でも誘うのだろう。ムッツリスケベの男僧侶は言うまでもなく、本来朴念仁な勇者までもが、こちらをチラチラと窺う始末。パンツじゃないのに、凄く、恥ずかしいです。
だけども、杖を振って俺のストレスの元だった部下たちぶっ叩くのは止められない。そんな事を続けているうちに、捲れ上がった裾に男たちが視線を集めてくれるのも、自尊心を満たされるようでいつしか嬉しくなっていった。