②
こうして聖女様の身体を乗っ取った私であるが……。
数日の間、その身体での生活を余儀なくされた。
サキュバスは「純潔を奪えば」などと軽く言ってはいたものの、ここは女の園。肝心のお相手がいやしない。
聖女という立場だから、厳重に監視されている。日々の暮らしも様々な戒律で縛られている。
敷地の外に出て、手頃な「相手」を見つけるといった手段をとるのも至難であった。
というか強引に外出して実際に「純潔」を捧げる「行為」に及んだとしたとする。「それ」を体験するのは私自身に他ならない訳だ。私だって初めての相手は選びたいよ(泣)
もっと、こう「物理的」な手段でとか、「いっそ同性で」なんて考えにも及んだ。ただ、そもそも人間の「純潔」の判定が、魔族の私には謎なのだ。
単に肉体のそれで良いのか。精神が「純潔」ならセーフ理論なのか。同性相手の場合はどうなる。サキュバスにその辺のこと聞いておけばよかった。
私は要人にあたる人物に憑依しているわけで、異常行動を取るとしたらチャンスは1度きりだ。いや、なるべく自然に「遂行」されるのが望ましい。
ここは機会を待ち、然るべき相手に確実に「純潔」を捧げるべきではないのか。
そう考えているうち、聖女様のお役目に奔走し、瞬く間に数日が経過してしまったのだ。
その間本物の聖女様は、依然水晶玉の中で眠りについている。聖女という立場の重圧から開放されたからか、実に安らかな寝顔。
水晶玉の隠し場所なんだが、机に仕舞ったままだと日中誰かに机を探られ、ふとした拍子に発見されないか不安になったので、絶えず懐に忍ばせることにした。
数日間も本来の『身体』から離れて心配ないのかだって? あぁ、それ何だがな。
私が俺本来の身体を離れて間もなく、接続が解除。元に戻れなくなってしまった。サキュバスの奴によれば任意で戻れる筈だったのだが。元に戻るとしたら、直接今の身体で元の俺の身体がある場所まで赴かないとならないだろう。
さて、それに合わせて「魔族」の勢力が、活発に活動を始めた。あー、これは誰かが俺の地位を乗っ取り、ついで「人間界」に侵略を企んでいるんだな。サキュバスの奴はサキュバスで、裏切ったわけでは無いだろうが、どうせ「そちらの方が面白い展開になりそう」と手引きしたのだろう。あれはそういう奴なのだ。
お陰で『俺』の胎動を『託宣』した聖女様の知名度は、うなぎのぼりに上昇した。……私は冤罪なのに。
幸い肉体は健在の様だ。今魔族を掌握している何者かも、傀儡の『俺』の存在を利用する必要がある訳だから、『俺』の肉体も厳重な管理下においているのだろう。
「戻れなくなった割には随分達観してるんだな」と当然読者の皆さんは突っ込まれることだろう。それについては、ここまで「魔王」時代の俺について余り言及していない事からお察しください。はっきし言って思い出したくもない。
「魔王」なんて所詮はそちらの世界で云う雇われ社長に過ぎないのですよ。
そして「そいつ」がやって来た。
本物の聖女様が行った託宣を受けてやって来た「勇者」一行。教会区長が揉み手をして歓待する。
「聖女」の私は操り人形の様に、定められた儀式をこなすだけ。
「昼間」の儀式はつつがなく終了した。