『太公望』
「昔、狂矞という賢人がいました。
太公望という周国の偉人が、それを聞きおよび、出かけていって会おうとしましたが、三度も門前払いをくらわされた上、狂矞の方は返礼のお目通りもしませんでした。
そのため、太公望は狂矞を処刑しました。
君主の周公旦が、なぜ狂矞は賢人なのに処刑をしたのかと尋ねると、太公望は答えました。
『狂矞は主義として、お上には仕えないと言った。私は彼が国法を乱し、お上の教えを侮ることをおそれて処刑したのだ。
今、ここに馬がいるとして、一日に千里を走る名馬にそっくりだが、駆り立てても走らず、止めようとしても止まらず、全く言うことを聞かなければ、誰一人として、この馬に乗ろうとは思わないだろう』
……自分は他の人間よりも優れているのに、何故、必要とされないのだろう。
……自分は他の人間よりも優れているのに、何故、正しく評価されないんだろう。
と考えたことはありませんか?
仮にその人が本当に優秀だったとしても、自分の意見を曲げず、人の意見を聞かず、我を通すだけであるならば、およそ誰もその人間を必要だと思いません。それどころか、むしろ疎まれることにさえ成りかねません。
結局、優秀な人間だから評価されるのではなく、役に立つ人間だからこそ評価されるのです。
だから、心に留めておきましょう。
ただ優秀なだけでは、誰も認めてはくれず、必要ともしてくれません。その優秀さが初めて輝くのは、事を成し、他人の役に立った時です」