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たんぽぽ的哲学  作者: 出入弦杜
初等講座
23/23

『斎藤緑雨』

「少し前の人の言葉ですが、

 『刀を鳥に加へて鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず』

 というものがあります。

 意味が分かりますか?」


「分かりません」

 女子留学生レイプール=カザンが手を上げる。


「その後に続く言葉はこうです。

 『声ある者は幸福也、叫ぶ者は幸福也、泣得るものは幸福也、今の所謂詩人は幸福也』

 

 魚には声帯がありませんので声が出せません。なので、刀で斬られても泣きはしません。一方の鳥は刀で斬られれば泣きます。声を出し、苦しそうに泣きます。


 想像してみてください。鳥の血には悲しみますが、魚が切られて血を流していても、悲しまないでしょう。これは共感を得られているか、得られていないかの違いです。


 つまり、声が出せる者は幸福で、叫べる者は幸福で、泣き叫ぶことが出来る者は幸福で、詩人を始めとする表現者は幸福だということです。


 今の時代、誰でも表現者になれるようになりました。それが今の環境の中で幸福かどうかは所論あると思いますが、もしあなた方が苦しむようなことになった時は、相手の共感を得られるかどうかということが重要になってきます。


 発注ミスで困っているだろうなという共感、パワハラを受けて可哀そうだという共感、政治家の裏金は許さないという共感、このご時世にお小遣いを減額というのは鬼のような提案だという共感、新社会人が営業に来たんだなという見守りたくなるような共感。


 共感を得られなければ魚のように扱われ、共感を得られれば鳥のように扱われるので、援けが得られるかもしれません。


 その第一歩は、信頼する者達に援けを求めることからですね。黙っていては、困っていることすら伝わらないかもしれません」


「先生、サブリミナルは止めてもらえますか。あと、個人募金は違法です」

 女子留学生レイプール=カザンが、『先生への義援金』と書かれた箱を折り畳んだ。


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