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妖言の鏡家

夏というのは、何故怖い話が盛り上がるのだろうか。


理由は人それぞれだろう。

お盆は死者の魂が帰ってくるから、

怖い話で涼しい思いをしたいからなど、

沢山理由はあると思う。


私の場合は興味本位(・・・・)だ。

怖いものが苦手なくせに、

どうしても見たくなる。そんな人は私だけじゃないはずだ。


しかし時にその様な興味は、持たない方がいい時もある。



私は友達にある遊園地の噂を聞いた。


「なぁ、裏野ドリームランドの噂って知ってるか?」


それは毎年友達同士で集まって、

怖い話をしあうという、なんとも下らない会での話だった。


友人は様々な噂を口にした。

ジェットコースターでの事故や、

遊園地での失踪事件、

極め付けは、誰も乗っていないメリーゴーランドが廻るという話だった。


「馬鹿らしい。そんなのただの噂だろ?」


私はいつもの様に、怖さを紛らわせるため茶々を入れた。


「それでさ、今度みんなで行ってみようぜ。

俺が聞いた中では、ミラーハウスが一番安全だと思うんだよ」

「行くって……ドリームランドに?」


私は一瞬断ろうと思った。

先ほどの話だけで震え上がっていた私は、

実際にその場に行くなど考えられなかった。


しかしどうしてか私は、その誘いに乗ってしまった。

興味が湧いたのかどうかは、

今となっては忘れてしまったが、

とにかくその時の私は、行ってみたいという気持ちがあった。



当日、集まったのはたったの3人だった。

怖い話の会には10数人いたのだが、

実際に来るとなると話が違うのだろうか。


集まったのは私と提案者、

そして自称だが霊感を持つという女性が来ていた。


「集まったのはこれだけかよ……。

みんな臆病者だな!それに比べてお前達!

流石だ!怖い話マニアの俺にとっての、

真の友達だよ!」


提案者はぴょんぴょんと飛び跳ねながら、

私達に言い寄って来る。


「悪魔でも私はついて行くだけです。

あの遊園地は嫌な感じがするので、

私は入り口で待っています。何かあったら知らせてください」


霊感の女は冷たく、提案者をあしらった。


遊園地は寂れていて、

如何にも出る、といった雰囲気が漂っていた。


ミラーハウスは園内でも奥の方にあり、

なんでも噂によると、

中に入った人は"別人の様に人が変わって"出て来るらしい。

まるで中身を入れ替えられたかの様だと、

提案者は語っていた。


そんなはずがない。

ただの噂、ただの噂。

中身が変わるだなんて、あり得るはずがない。


「おい。お前だけでも良いや、早く行くぞ」

「あっ!待ってくれよ」


遊園地内に入っていく提案者に、

走ってついていった。


中は恐ろしく廃れている。

懐中電灯を付けていても数メートル先は真っ暗で、

電灯はおろかアトラクションの光すらついていない。

観覧車の動きは止まり、

メリーゴーランドも止まっている。


そんな中、ポツンと佇んでいる不気味な建物が見えてきた。


「あれだ。あれがミラーハウスだ。

安心しろよ。あんなのただの噂だから、

入って出て来るだけで、なんてことはねぇよ」

「わ、分かってるってば」


ただの噂、ただの噂。

心のなかで何度も繰り返し、

平静を保っていた。


入り口には立ち入り禁止の立て看板が、

取り付けられていた。


「なぁ。俺良いこと考えたんだけどさ。

一人ずつ入ってみることにしねぇか?」

「はっ?おま、馬鹿じゃねぇの?」

「じゃ先、俺入るからさ、

お前は俺が出て来たら入れよな!」


こいつ……俺が怖がりって分かってて言ってるんだ。

なんて意地悪な野郎だ。


提案者は中へ入って行き、グングンと進んで言った。

しばらくは行き止まりだ!とか、

おっ、こっちは通れる!などと聞こえていたのだが、

急にボソボソと言い始めた。


耳を澄ませてみたが、

息を潜めている様な感じで聞こえない。

何かあったのだろうか。


しばらく心配していると、

キィィィィ!と言うドアが軋む様な音と共に、

短い悲鳴が聞こえた。


私を怖がらせようとしているのだろうか?

嫌がらせにも程がある。


しかしあの悲鳴以来、何も聞こえなくなったので、

怖くなり、もう逃げかえろうかとしていた時に、

出口から提案者が出てきた。

私は少し苛立ちを覚えた。


「なんで急に短い悲鳴なんてあげたんだよ?

私を怖がらせようとしたな?

意地の悪いやつめ!」

「あぁ、……悪い。

いや、なぁに。ちょっと怖い場所があってね」


なんだか不思議な感じだった。

きっと演技なのだろうが、

人が変わった様にも見える。

やはりこいつは許せない。

そこまで言うんだったら、

怖がりじゃ無いって見せてやる!


「じゃ次は私の番だな!

見てろ!お前が怖がったところも、

怖がらずに行ってやる!」

「あ、あぁ。頑張って」


くそっ、イライラする。


中は普通のミラーハウスと同じく、

ただ鏡が並べられていた。

鏡は少し汚れていて、

よく自分の姿は見えなかったが、

それがまた不気味さを引き立てていた。


先に入って行った提案者と同じく、

行き止まりや通れる道を進み、

大広間に出た。


大広間はミラーハウスの中間地点で、

三又に道が分かれていた。


どこに行こうかと迷っていると、

鏡の中にいる私が増えた。


私は驚き、後ろを振り向くと、

そこには私が立っていた。

私ではない、私だ。


ドッペルゲンガーというのを、

聞いた事はあるだろうか?


自分とそっくりな姿をした分身だとか、

自己の罪悪感を投影した幻だとか言われているあれだ。


「やぁ。初めましてだし、ずっと一緒にいた様な気もするね」

「お、お前は?お前は誰だ?」

「何行ってるんだよ?お前がよぉく、知ってるだろ?」


知ってる。知ってるけど、そんな馬鹿なはずがない。

あり得ない。自分が目の前にいるだなんて、

科学的にあり得るはずがない。

極度な恐怖による幻覚だ。

そうに違いない。

ストレス的な問題だ。そうじゃないと説明がつかない。


「そう。お前が思っている通り、

俺はドッペルゲンガーさ。

お前は聞いたことがあるかな?

ドッペルゲンガーに出会うと、

死んでしまうって話」


私は無視をした。

幻覚なら無視していたって問題ないだろう。

まず右の道へ進んだ。


「そっちは行き止まりだよ。

正解は左の道なのに」


幻覚は私に話しかけてくる。

幻聴だ。これは怖さによる幻覚。

大丈夫、大丈夫。


右の道は、幻覚の言う通り行き止まりだった。

後ろを振り向くと幻覚も歩みを止め、

微笑みながら、私の帰り道をふさいだ。


「あーあ。正解の道を選べてたら、

助かってたんだけどね。残念。」


私の下にある床が、軋みながら開いた。



その後の記憶は全くないが、

気がつけば出口前にいた。


「やっと出てきたか。遅かったな。

じゃ、もう帰ろっか」


一瞬誰か分からなかった。

……そうだそうだ、ここに行こうと提案してきたやつだ。


「あぁ、帰ろっか」


遊園地は相変わらず不気味だったが、

日がだいぶ登ってきて、

周りはだいぶ明るくなっている。

なんと言うか、ゾンビ系映画の様な雰囲気だった。


入り口には女の子が立っていた。

退屈そうにしていて、雑誌を読みあさっていた。

彼女は…ええっと…、そうだ。

霊感を持っている女の子で、

俺達について来なかったやつだ。


「ずいぶん遅かった……って、

全く霊が取り憑いてないのね。

やっぱりガセネタだったの?」


霊が取り憑いてないって……。

見えるのかよ…。


「あぁ、多分ガセだな」

「なぁんだ。折角お祓いキット持ってきたのに」


笑いながら、俺たちは家に帰り、

お酒などを飲んで盛り上がった。

その後、俺達は家が少し遠いこともあり、

霊感女の家に泊まった。


それからは結局遊園地の話もせず、

いつも通りの生活に戻った。


会社に行って仕事をし、

家に帰って友達とゲームをし。


遊園地をすっかり忘れていたある日、

テレビで裏野ドリームランドの話があっていた。

何やら老朽化が進み、

いつ倒れるか分からない状態だったので、

アトラクションを解体すると決まったのだ。


ジェットコースターや観覧車などが解体され、

俺達が肝試しに行ったミラーハウスに着手したのだが、

地下に空間が見つかったらしく、

中から多数の白骨化しかけた死体が見つかったらしい。



後々、その死体のDNA鑑定などをされたらしいのだが、

全員生存の確認がされたので、

死体は悪質な悪戯と処理された。



そういえば俺の一人称が、

私から俺に変わったのに気付いたのは、



何人いる?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドッペルゲンガーの現れた場所がミラーハウスというのは、抜け出た鏡像を連想させる感じがあって良いですね。 また、ミラーハウスの地下にあった大量の死体を「悪質な悪戯」でスルーしてしまう所轄警…
[一言]  オチにもうひとひねり欲しかったかもしれません。  読みやすく、分量的にも適度で、雰囲気は出ており良い感じでした。夏には、こういうさくっと読めるホラーもよい感じだと思います。
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