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バーゲイン  作者: 斬駆
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第4章〜2人は優しさと馬鹿らしさをなりふり構わずにばらまく

 メディオン島の基地からわずかに離れた海岸にて・・・

カリル率いるネクロード号の奇襲により、今や戦場と化しているメディオン島。

そこにその2人はいた。

「や、やっぱりやめたほうがいいよ・・・。あの人たち怖そうだし・・・。」

気弱な声で少女は隣にいた男の服の裾をつかむ。

そんな気弱そうな彼女とは対象的に、その男はフフンと鼻を鳴らせてみせる。

「心配すんなってカノン!あの連中いまかなり忙しそうだし、今なら占拠してアレを調達できるさ!大丈夫だって、その何だ・・・そう、エフビーアイみたいな感じにやれば大丈夫さ!」

「エ、エビ・・フライ?」

まったく話が通じていないように見えるこの2人組は、とある理由で2人で旅をしているのである。そして、どうすればそういう事になるのかはわからないが、どうやらメディオン島にこっそり潜入して、この島ごと占拠してしまおうという無謀な作戦を考えているらしい。

普通の人が今のこの2人の会話を聞いていたとしたら、おそらくそう思うだろう。

「エビフライじゃねぇよ、そんなに腹減ったのかカノン!はははは!照れなくてもいいぞ!」

笑いながらカノンの頭をなでる男に対して、カノンという気弱そうな少女は頬を赤らめる。

「そ、そんなんじゃないって・・・!ラ、ライ?聞いてる?」

他人から見てみると、とても島を占拠するようには見えないし、そんな判断力や戦闘力があるとも思えないだろう。

カノンという女性はまさに少女といった感じであり、非常に細身な体であり、力の強い男性が少し強く握ったらつぶれてしまいそうな感じである。年齢は16,7といったところである。

一方、ライとよばれた明るい感じの男は、20くらいには見えるのだが、明るい性格と頭をスカーフのようなもので覆っているため、なんとなくの年齢しか割り出せないだろう。

体格は訓練した兵士のように良く、なかなかの長身なことも含め、見た目だけならば強者に見えなくもないのだが、あの明るい性格が、残念ながらそれを打ち消しているようだ。

ライとカノンはしばらくその場で話をしていたが、ある程度した時にライがカノンを後ろにして基地を目指して歩きはじめた。

歩いてしばらくした途中で、カノンはある疑問が生まれ問いかける。

「あ、あのさライ。」

「ん?どうした、カノン。」

気軽に笑顔で振り返るライを見て、カノンの疑問はさらに深まる。

そのカノンの問いかけを聞いて、ライの足はぴたりと止まる。

「その基地っていうのがどこにあるのか・・・わかってる?」

ライは一瞬だけ深刻な表情になりつつも、すぐに鼻をフフンと鳴らしてみせる。

「まったく、カノンは心配性だなぁ。そんな基地までの道のりなんてな・・・」

やっぱりライは頼りになるなぁ。あらかじめ調べておくなんて。

そうカノンは安心しながらもライを関心していたが、次のライの言葉で再び不安へと落とされる。

「冒険の勘を信じて進んでいりゃ、おのずと目的地へ辿りつけるものだぜ!」

「え、ええっ!?だ、大丈夫かな・・・。」

やっぱり不安だなぁ。けど、大丈夫だと思う。私にはライがいるから。

カノンはライを信頼して、再びライの服の裾をぎゅっとつかみながら前に進む。

しばらく人の気が全くない森の中を歩いていると、ライが急に今の作戦について振り返りはじめる。

「なぁ、カノン。今回の作戦からいよいよ俺らの野望が本格始動なわけなんだが、それなだけに今回はさすがにこれまでの奴らとは一味違うぞ!だが、まぁ俺とカノンの慎重かつ緻密な作戦にかかればそんな奴ら関係ないさ!なぁ、カノン?」

「や、野望って・・?それにここの人たちは世界でも群を抜いた戦力の持ち主だし、しかも私たち・・・作戦なんて考えてこなかったよ。」

その不安気なカノンの言葉を聞いてライは歩きを止め、そのまま硬直する。しかも笑顔のままで。

カノンはその硬直したライを見て、さらに不安が高まる。

「ど、どうするのライ?やっぱりやめたほうが・・・」

「馬鹿野郎!!」

「え、きゃっ!?」

カノンが引き返すことをライに提案をしようとしたのだが、言い終わる寸前にライが両手で肩を強く掴んできたので驚いて黙ったしまった。

「マイナス思考は良くねぇぜ!それに、俺とカノンならどんな困難でも乗り越えられるだろ!少なくとも俺はそう信じてる!だからな、頑張ろうぜカノン!」

そのライらしい元気付けに、カノンは即座におだやかな顔になり、笑顔で返答する。

「うん!ライがそう言うなら私も頑張るよ。」

ライはいざと言う時は本当に心強いなぁ。昔からいつも危ないときは助けてくれてたし、やっぱりライはすごい。

そうカノンがライを感心していると、ライからその感心を打ち消す言葉がでてくる。

「ところでカノン。」

「ん、ライ。どうかしたの?」

「道に迷った。」

や、やっぱり大丈夫かなぁ・・・。

カノンが再び不安を抱き始めたその瞬間、横の木陰から人が突如現れ、ライにそのままぶつかる。

「うおっ!?」

その横からの唐突な衝撃に驚いたライはあわてて衝撃がはしった方向を見る。

すると、そこにいたのは黒髪の袴姿の女性であった。

ぶつかってきたものの正体がしっかりとした人間であることを確認すると、ライはその女性に軽く話しかける。

「悪いな姉ちゃん。ちょっと周りをよく見てなかったよ。これからはこの失敗をふまえてしっかりと周りも確認しながら歩くようにするよ!!だからあんたとのこの出会いは無駄にはならなかったわけだ!!まぁ、そのなんだ・・・。とにかく、ぶつかったことは謝るよ!」

意味のわからないライの謝罪に、黒髪の女性は戸惑いながらも返事を返す。

「いや、こちらもすまなかった。少し急いでいて周りをみていなかった。」

「本当にすいませんでした。しかもライは普通の謝り方ができなくて・・・。」

「いや、構わない。」

カノンがライの意味のわからない謝罪をサポートする。

「急いでいたって、どこかにお出かけとかでもするんですか?」

「ああ、ちょっとな。」

一方黒髪の女性は早々に基地まで急がなければならないところだが、どうもこの2人組に疑問が残っていた。

この2人・・・何でこんなところにいる?

私自身この島に住んでいるが、この2人には会ったことがない。それにこの男、あの黄髪の男と性格が・・・。いや、しかし髪が違うな・・スカーフでもしかしたら隠していて、実はすでにこの島に潜入しているのか?確かめてみる余地はあるな・・・。

「少し質問してもいいか。」

「ん?ああ、何でも質問してくれ!」

女性は自分の中でうまれた疑問を確かめるために、ライに質問をする。

「お前たちはどうしてこの島にいるのか少し聞きたいのだが。」

「え、えっと・・・それは・・・。」

明らかに答えるのを迷っているカノンを見て、女性は疑問が確信へと近づくのを感じた。

そして・・・

「この島を乗っ取るためにいるのさ!!」

状況がまるで読めていないこの男の一言で疑問は確信に変化した。

こいつ・・・!

女性は2人が基地を乗っ取ろうとしていることを知り、懐にしまってあった銃を即座にとりだしてライに銃口を向ける。

「オイオイマジかよマジかよ!初対面の人に銃をむける奴なんて姉ちゃんが初めてだぜ!どうしたんだ?何か悩み事でもあって、もしかして俺達と一緒に心中しようとしているのか?やめておけ!考え直さないと仲間が悲しむぞ!もしも姉ちゃんの決断が固いのであれば殺すのは俺だけにしておいてくれ!カノンはまだ20もいかない女の子だ!可哀想すぎるだろ!な?」

「ラ、ライ・・・そんなに私を・・・。」

まったく状況を勘違いしているライに対して、ツッコミもいれずに女性は銃口をライから外さずにライに問いかける。

「お前みたいな奴が、ここの基地を乗っ取ることができるとでも思っているのか?下手をすれば・・いや、しなくてもおそらく今ここでお前は死ぬぞ。」

あまりにも冷静な女性の話を聞いたにもかかわらず、ライの態度や表情は変わることはない。

「ああ、銃は持っていないがきっと乗っ取れるさ!俺とカノンのこの愛と友情、そして情熱の力なら、光の速度にだって追いつける!!つまり、俺にはカノンがついていて、女1人に銃を向けられたくらいじゃあびびらないってわけさ!理解したか、姉ちゃん。」

・・・なぜこの男は銃を向けられてもまったく動じないのだ?カノンという小娘がついているから?そんなものは理由になっていない。それに、銃を持っていないだと?手榴弾やナイフで攻め込むつもりか?さては情報を錯乱させるつもりか。

どちらにしろ、まずはこのカノンという小娘を捕虜にしておくべきか。

そう思った女性は、カノンに銃口を向ける。

「そこの小娘、おとなしく私と来てもらおうか。抵抗したら即座に撃つ。」

女性は、銃で脅せばこの気が弱そうな小娘はおとなしくついてくるだろうという考えだったのだが、案の定カノンは銃にまったく動じることなくこちらを強く見つめており、銃に対する恐怖は全くないように感じる。

「い、いやです。私はライと一緒にいます。それにあなたいきなり銃なんて危ないものを向けてきて一体何者なんですか?」

正体を聞かれた女性は、銃口をカノンから離さないまま正体を明かしはじめた。

「私はメディオン本部所属、中尉であるキュウカ・マリアクだ。」

「え、中尉?っていうことはここの基地の偉い人ってことですか?」

「そうだ。」

それを聞いたライはなぜか安堵の表情になり、女性・・キュウカにきさくに話しかける。

「なんだそうだったのか!良かった〜!あのさ、姉ちゃん。俺たち今その基地に行きたかったところだったんだ!場所を教えてくれないか?」

ライのあまりにも状況が読めていない言葉に、キュウカは新たに疑問を持ち始める。

この2人・・・本当に基地を乗っ取ろうとしているのか?そうだとはあまりにも思えない。

銃は持っていないし、非戦闘な感じだし、何よりもその緊張感や風格のようなものが感じられない。あの時の船の連中、特に黄髪の男などは銃はほぼ激射、かなり好戦的、そして戦いの風格が漂っていた。今のこの男とはまるで正反対だ。

「お前たちは、本当にここの基地を乗っ取ろうとしているのか?」

その質問に、カノンは若干笑いながら答える。その時のカノンの表情は、まるで友人にでも話しかけているような穏やかな顔であり、恐怖心などは欠片も感じさせない。

「ちょっと大げさにライが言っているだけなんですよ。本当は食料が私たちないので少しわけてもらえないかと思って。それで、もしわけてもらったらお礼にその人たちの手伝いをするようにしているんです。だからキュウカさんもそんなに怖い顔しないでください。基地を乗っ取ろうなんて気は全くありませんから。」

「何・・・!」

カノンの言葉を聞いたキュウカは、ゆっくりと銃を懐にしまう。

全て勘違いだったということか・・・?

私としたことが完全にこのライという男の空気に呑まれたせいか。疑心暗鬼になりすぎて、もう少しで無駄な命を奪ってしまうところだった。

これはこの2人に本当に申し訳のないことをしてしまったな・・・。

「どうやら私の勘違いだったようだ。本当に申し訳ない。こちらは今海賊が攻め込んできていてな、潜入者などについても厳重に対応しているんだ。」

「全然大丈夫です。こちらもライがまぎらわしいことを言ってしまいすいませんでした。」

「はっはっはっは!!ま、誰にでも勘違いはあるわけだから気にするな姉ちゃん!」

2人の気軽な対応にもあまり反応せず、真剣な表情で2人に話す。

「いや、罪のない女性に銃を向けるなど許してはならない行為だ。よければ、私の今持っている食料で良ければ差し上げよう。いや、むしろ貰ってくれないか。」

キュウカの懐に入っていた小包みに入っていたのは、大量の非常食や戦闘食であった。

ライたちにとってこれほどありがたいお礼はないだろう。

しかしカノンは首を横にふり、キュウカに笑顔をむける。

「気持ちだけで十分です。キュウカさんは本当に優しい方なんですね。」

その意外な言葉が返ってきて、キュウカは若干顔を赤らめる。それと同時に悲しい気持ちにもなる。

優しい・・・か。私には到底ない感情だ。今まで人を非常になり何人殺してきたことだろう。しかし、仲間や大切なものを守るためならばそれも厭わないつもりだ。もちろん、これからもずっと、この終わりの見えない長い長い戦いが終わるまで。

「私に優しいなど、到底ほど遠いものだ。けど・・・ありがとう。うれしかったよ、はじめてそんな事言われて。」

先ほど出会ってから初めてのキュウカの人間らしい素直な言葉に、カノンは安心する。

一方ライは、なぜか急に瞳に涙を溜め、いまにもあふれ出してしまいそうである。おそらく感動する映画を見てもこれほどの涙はたまらないだろう。

ライはキュウカの手をとり、泣きかけながら叫び始める。

「はじめてだって!?姉ちゃんみたいな親切な奴が優しいって言われたのが!?な、なんて可哀想なんだ!!安心しろ姉ちゃん。世界全てがもしあんたを優しくないと思っていても俺とカノンはあんたが優しいってことを知っている!そしてその時は俺とカノンで、姉ちゃんが優しいってことを世界中に証明してやるからなっ!!なっ?だから何か悩みがあったらこのライとカノンに任せとけ!」

「あ、ありがとう・・・・。」

なんかわからないが、この2人は悪い者ではないようだ。むしろ、よくわからないのだが、一緒にいると不思議と気持ちが安らぐように感じる。辛い事も忘れてしまいそうなほど、この2人は笑顔で、そして優しくて・・・・。もっと話がしてみたいところだったが、今はそれどころではない。自軍の基地が攻められているのだ。

「すまない、もう行かなくてはならないのだが、もし基地に行きたいのであれば案内を・・・」

その先は言わずに止めた。この2人を戦いに巻き込んではいけない。そう思って思いとどまったからである。この2人のためにも、ここは逃がすのがいいか。

「どうしたんですか?もしかして、具合でも悪くなったんですか!?」

「いや、大丈夫だ。それよりも、ここは今戦いが起こっている。今のうちにこの森をここから西に向かったところの海岸に出るんだ。そうすれば船に乗って隣の島まで着ける。船の料金は私が払う。」

あまりにも親切なキュウカの行動に、カノンは少し戸惑うがやがてキュウカの、船の料金を差し出している手をそっと両手で包み込む。ライはそれについての納得なのか、うんうんと首を縦に振っている。

「やっぱりダメです。仲間からお金をもらって私たちだけ逃げるなんて、不公平です。いくらキュウカさんが軍人さんだと言っても、仲間ですから。」

カノンは一体何を言っているのだろう。キュウカの脳裏ではそう思い続けていた。

まだ出会ってほとんど間もない人間に対して、仲間だと?理解できない。さきほどのあのような事だけで・・・?

「仲間・・・?私がか?」

キュウカがさきほどから脳裏に浮かんでいた疑問をカノンに問いかけると、ライが横からスッと出てきて両手を高々と空に向ける。

「姉ちゃんが仲間?当たり前なことを聞くなって!俺たちはさっき仲直りをして、もう仲間・・・まあ友達になったわけじゃないか!仲間ってのは大切なんだよ。そう・・・家族みたいなもんだ仲間は!だから俺やカノンにとって姉ちゃんは家族のように大切な仲間なわけだ!!だから姉ちゃんを俺たちが手伝ってやるぜ!!」

「そうです。だからキュウカさんは家族みたいに大切なんですよ。だって、キュウカさん良い人じゃないですか。良い人は守られるんですよ?」

仲間だから家族?私が大切な存在?良い人だから守られる?

そんなこと、戦いに出陣している途中の私を見たらそんな風には思わなくなるだろう。

やはりこの2人は、私とはいるべき場所が違いすぎる。この2人に不幸や戦いは不似合いすぎる。おそらく、もともと生まれ育った環境も平和だったのだろう。

この手は極力使いたくはなかったが、2人を戦場に近づけないためには時間稼ぎをしなくてはならない。そうでもしなければ、この2人は何を言っても絶対についてくるだろう、戦場まで。

そんな事だけは絶対に避けたい。だから許してくれ・・・

「ん、どうしたんですかキュウカさん?」

深く思いつめるキュウカを見て心配になったカノンがキュウカのもとに近づく。

しかし、懐にしまっていた物をキュウカはカノンの額に押し付ける。

そして、引き金を引いた。

「すまない・・・。」

その後、基地にたどり着いたのはキュウカだけであった・・・・。


今回のこの第4章はかなりの長話となってしまい申し訳ありませんでした。(特に載せたい内容が多い章だったもので・・)

そして、今回で初めて登場のライとカノン。この2人が今後さりげなく物語にとても関わってきます。

次回の章はケアンを主としたラクト義勇軍の初の戦いについて、そして後半は、義勇軍と対決することになる敵軍についての話です。

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