第2章〜青年は純粋な瞳で戸惑いを覆い隠す
超巨大戦艦メディオン島にて・・・
全くもって悪い状況になった。
島が巨大な艦と化しているこの場所で、1人の女性は森の中を歩きながらそう感じていた。
まずいな、一度ムランのもとへ行っていたため遅れてしまったな。おまけに途中で不思議なな2人組みに出会ったたおかげで、さらに時間を遅らせてしまった。時は一刻をも争うような状況だというのに。まぁ、時間を無駄にしたとは思ってはいないが。
非常に困った。まさかあの連中とまた戦うはめになるとは。
女性は歩く速度をわずかに緩め、思考する方に集中させる。
なぜ、あの連中は奇襲を仕掛けてきた?
あの時に十分思い知らせてやっただろう、私たちの力を。力の差がはっきりとしている事を。
まぁ、あの狂った黄髪のやつに関しては別だが。奴だけは喋り方やテンションこそ異常であったが、それ以上にその戦闘力に驚かされた。なぜなら、誰も奴に傷1つつける事ができなかったからだ。
余談ではあるが、その黄髪とはカリルの事であると後々判明するのだが、それはまだ先の話。
確かに私たちも多少ではあるが、やり過ぎてしまっていたかもしれない。
こちらの防衛圏内に入ったという理由だけで戦いをふっかけてしまったからな。
戦いをふっかけたのは断じて私ではない、私は単なる援軍だったからな。
あの感情的に先走る娘、マレットの部隊が急に小型戦艦で襲撃をかけたのだ。
彼女の話では小型戦艦となっているが、それは島と比べたらの話であり、
実際はかなり巨大な戦艦だったのである。
マレットは多少戦闘というものを甘くみている節がある。
彼女のそのせいであの時も仲間たちが何十人と殺されたり、死にかけたりした。
それも、あの黄髪1人の手によって易々と、あまりにも易々と・・・。
だが、今は過去のことを振り返っている場合ではないな。問題は今のこの状況だ。
あの連中が急に奇襲を仕掛けてきたことにより、こちらの艦はかなりの被害を被ってしまった。
そして、あのマレットの部隊が迎撃に向かったのだが、隊長であるマレット本人が負傷してしまい、撤退してきてしまった。
マレット本人は撤退を断固反対していたらしいが、副隊長のツヴァイカがマレットの身を考え、説得してくれたらしい。
妥当な判断だろう。もし、撤退していなかったら確実にマレットはあの黄髪に殺されていただろう。
その結果、今度はヴィクト准佐の部隊以外の全部隊に出撃命令を出された。
アスペン艦長も随分と思い切った事をする。
だが、あの人はそれだからこそここまで登り詰めてきたのだと私は思っている。
まぁ、艦長の指示を受けたから私は今こうして部隊のいる基地へと向かっているわけなのだが。
そう思考しているうちに、彼女はもう基地に到着していたことに気がつく。
かなりの距離を歩いていたのだが、彼女は歩く足の速度を緩めることなく基地の中へ入って行き、ようやく司令室へ到着する。
その司令室の雰囲気を見た限り、何やら深刻な出来事が起こっているように彼女は直感する。
やけに皆の声や反応が必死だったからだ。
「遅れて申し訳ない。状況はどうなっている?」
彼女のやや大きめの声が周囲に届く。
すると、背がだいぶ高い女性が早歩きで何やら彼女に近づいてくる。
そして一発、彼女に待っていたのは女性のビンタの洗礼だった。
「一体どこへいっていたんだキュウカ!こんな重大かつ深刻な状況の時に!」
「すまない、住人たちを非難させるのに時間がかかってな。」
「そんな事は奴らがこの島に攻め込んできてから考えろ!」
彼女、キュウカ・ラキスターに女性はやけに焦って詰め寄るのに対し、
キュウカは全く姿勢を崩さず冷静に女性を落ち着かせようとする。
「少し落ち着けニーナ。何かあったのだろうが、戦闘のリズムが狂い、焦っていては敵に利が生まれるぞ。おそらく、あの連中は必ずこの島に上がってくるだろう。あくまで直感だが。そもそも、私たちの早とちりが原因であの連中との戦いになってしまったのだろう?」
ニーナはキュウカを睨みつつも、少しづつ落ち着きを取り戻していった。
キュウカはそれを確認すると、ニーナの前を通り過ぎていき、その横に立っている男に呟く。
「ドゥロースン中佐。申し訳ないが状況の説明をお願いできるか?それに、やけに到着している部隊が少ないようだが・・・。」
キュウカは辺りを見回しながらそう呟く。
私が最後に到着した部隊長で、他の部隊長たちはとっくに到着していたとおもっていたのだが、それにしてもこれは異常だな。
私を含めて4人の部隊長しかいないとはな。
ニーナはもしかして、それで私を心配してくれていたのか?
おそらく他の部隊長たちは早急にあの連中たちのもとへ向かったのだろう。
「うむ、よかろう。だが今は時間が一刻も惜しい状況だ。手短に説明するぞ。」
「助かる。頼む。」
ドゥロースンという中佐の男は、手短ではあるが、一言一言重く説明を始めた。
たった今起こっている第一の戦場の中で・・・・・
「ラクト義勇軍」本拠地にて・・・
収まらぬ興奮のまま支度を終えたケアンは、母に目的を告げると義勇軍の本拠地へ向かい、何も考えずに猛ダッシュで駆けていた。
そして、あっという間とはこのことかと納得できるほどに早く到着した。
本拠地に着くと、ケアンは息がまだ切れているのも気にせずに、また新たに興奮し始めた。
ようやくついに!ついに!あの憧れの義勇軍の本拠地に入れるのか・・・
どんな感じなのかなー。そういえばマリカとか他の人はもう来ているのかなー。
まぁ、入ってみればわかるだろう!・・・けど、なんか本拠地に入るだけで緊張するなー。
ケアンはそう色々と考えながらも、本拠地へと足を踏み入れていった。
そして、その入り口付近の大きな集合所のような場所に父親であるウルグを先頭とした集団が並んでいた。
そこにはマリカの姿も確認できた。何やらヒラヒラとこちらに手を振っている。
他にも数十人の男女の人たちが確認できる。その半分くらいは俺と同じ新入りなんだろうな。
ケアンはそう思いながら、ウルグたちのもとへ近づく。
ウルグはケアンが来たのを確認すると、ケアンにとっては完全にに見慣れた凶悪な笑みを浮かべた。
「ようケアン。お前が来た奴で最後だぞ。まぁ、お前を最後に呼んだからお前が最後なのもしょうがないがな。」
あれだけ頑張って走ったのに最後かよ。
ウルグの笑い混じりの言葉を聞いてケアンは少しばかりがっくりしていた。
そんなケアンなど気にせずに、ウルグは話の本題へと入る。
「まずはお前たちに義勇軍はどういうもんなのかってのを一応言っておく。義勇軍ってのはガキの戦争ごっこじゃない、チンピラどもの生半可な喧嘩の類じゃない、立派な命のやり取りなんだよ。だから中途半端に情けをかけたりするような腰抜け野郎は、まず最初に死ぬ。だからそういうのが苦手って奴は支援兵にまわってくれ。それをまずはわかっておいてほしい。」
いつも冗談ばかりいって自分をからかっている父親の姿を思い出し、ケアンはウルグがいかに真剣な話をしているかを理解する。
中途半端な情けはかけるな・・・か。それってつまり、向かってきた敵は必ず躊躇いなく殺せってことだろ?俺にそんな事できるかな・・・いや、やるんだ!やらないと誰も守れない!
ケアンはウルグの話を聞きながら自分なりに悩みを解決したり、決意を固めたりしている。
この仕事は・・・思っていたよりも過酷そうだな・・・・。
今さら気がついたのか。他の人がケアンの心を読んだとしたらおそらくそのような答えが返ってくるだろう。
「一応聞いておくが、お前たちは本当にこの義勇軍に入って後悔しないか?入ったとしたら早速任務に移ってもらうことになるぞ。もし考えがかわったんなららここで引き返すことはまだ可能だが・・・。」
そのウルグの質問を聞いて表情を変えるものは一人としておらず、
裏を返して言ってしまうと、引き返すようなムードではないため、完璧に抜け駆けできない状況になっていると言えるだろう。
無論、抜け駆けをしようとした者など1人もいなかったのだが。
ウルグはそれを確認するとまたしても凶悪な笑みを浮かべた。
別に彼はあえて凶悪な笑みをつくっているわけではなく、生まれつきそのような凶悪な顔をしているのである。
けれど、狼などの凶暴な動物が最大限に笑うとこんな感じになるだろう。
などと、今のウルグの笑みを見ていたものはおそらくそう思うだろう。
「頼りになりそうな新入りたちで助かる。では各自のこれからの準備室を部下たちが案内しよう。準備室は、名前のとおり戦闘準備をしたり、長期戦になったときに一時的に休憩したり様子をみたりする部屋だ。では、デュッセン、ルキ、レイフォー、それぞれ案内を頼む。」
「了解〜。」「あんたはいつも緊張感ないわね。」「全くその通りだな。」
何だこのコントみたいな隊員は。
特に了解と軽口で言った男は、いかにもへらへらした感じではあるが、
顔の数え切れないほどの傷跡を見て、相当な経験と腕の隊員であると教えられる。
ツッコミを入れた女性の隊員はいかにも強気な感じで男勝りな雰囲気を出している。
そして最後に口をはさんだ壮年の男は、顔つきや姿勢、体つきからして相当な手馴れであると誰もが確信する。
「では案内するとしよう。ではケアン君、まずは君から私についてきなさい。」
レイフォーと言う名の男は、ケアンを指名するとケアンが追いついてくる前に歩き出してしまった。それをケアンは戸惑いながらも急いで小走りで追いかける。
ちょっと・・・待ってよ!
ケアンは喉の奥までその言葉が出かかったが、何とかとどめる。
そう追いかけているうちに、レイフォーが1つの扉の前で止まる。
「ここが君の部屋だ。必要最低限の物は大体はそろっているはずだ。指示が出るまではここで一旦待機していてくれ、ケアン君。」
そうレイフォーは言うと、扉を開けてからケアンのほうに顔を向け優しげに微笑む。
「私の名はレイフォー・セブン。この軍では副隊長を一応務めている。よろしく頼む、ケアン君。なにか困ったことがあったら、いつでも私に言ってくれ。」
レイフォーの差し出してきた手を握り、ケアンも微笑み返し自己紹介をする。
「こちらこそよろしくお願いします!俺、村の人々や、この国から平和を取り戻すために精一杯戦います!」
ケアンはそう告げながら微笑むのに対し、レイフォーは急に違和感を覚えたような表情を見せる。
「立派なことだな。しかし、国や村を守るためとはいえ、君は・・・人が殺せるのかな?」
「えっ?」
唐突すぎる質問だった。そして答えにくい質問でもあった。
人の命を奪う。その単純であり時に複雑にも見えるその行為は、よほどその殺す理由が人の命を奪うこと以上に値することでないと、そんな行為はできない。
いや、殺すこと以上の思いや理由があるにせよ、人を殺す・・・その人の人生を奪うと言うことは決してやってはいけないことである。
そんな事はケアンもわかっているが、殺さなければこっちが殺される。これは戦場の常識だ。
そんなことを今さら聞かれるとは思っていなかった。
「怖いですが・・・みんなを守るためなら・・・できます!」
「無理だよ。」
「えっ?・・・な、何でですか?」
あまりにも率直に自分の思いを否定され、ケアンは激しく動揺する。
「無理だよ、今の君にはね。今の君の瞳は純粋すぎる・・・汚れを知ることを拒絶している。そして何よりも、おそらく君は殺すことに対する恐怖に耐えられないはずだ。」
「そ、そんな事ないですよ!第一その状況に置かれてみないとわかりませんし・・・。」
話の展開が急すぎるためか、自分の思いを否定されたためか、ケアンは話の状況を完璧に理解できていなかった。殺しと言う行為について悟る、レイフォーの言葉について。
「うむ、確かにそのとおりではあるがな。だが、戦闘の教訓として覚えていてくれ。殺しをするときに1秒でも躊躇った場合、その者は死ぬ。情を持てば持つほど戦場で死ぬ可能性は上がる。それを忘れないでくれ。君には生き延びてほしい、絶対にね。・・・おっと、話が少し長引いてしまったようだな。私はこれにて失礼する。では。」
レイフォーは一方的にケアンに話を告げると、また入り口への道を歩き出していってしまった。
レイフォーの真面目な話を聞かされたケアンは、今さらになり、自分が思っているよりも非常に危険なボードゲームのスタートに立っている事に気がついた。
まぁ、そんなに気にすることじゃないよな。情けをかけなきゃいいんだろ、かけなきゃ。やってやるさ。
ケアンは軽い気持ちで先ほどの会話を受け流そうといた。
本当は人を殺すことが限りなく怖いという真実を、人に悟られないために・・・・。
今回の第2章はメディオン島の状況などをキュウカという女性剣士の視点で描きました。
そして後半は、ケアンと義勇軍についての話でした。
このケアンの殺しが怖いという思いが、後々に重要なポイントになってくるはずです(たぶん)。
次回はキュウカの話にでてきたマレットという女性の戦闘部隊と、カリルたちネクロード号の海賊たちの戦闘シーンの話を主に描くつもりです。(そういえば次回で戦闘シーンはやっと初ですね。)
次回、またこうしてお会いできましたら幸いです。
少し長くなりましたが、では!