第1章〜船長は頭のネジを紛失いたしました
とある小さな村、ラクト村の青年の家にて・・・
人生で最高の日だ。
ある青年はそう感じながら無邪気に胸をはずませていた。
この17という歳で、まさかこの俺が父さんの義勇軍に入れるなんて。
何でも人数が少なすぎて戦況がいつも不利だから、隊員を増やすんだとか。
ま、今はそんな理由は正直どうでもいい、むしろありがたい!
なんせその理由で、憧れの義勇軍に入れて戦場という舞台に立てるのだから!
今ままでの生活はかなり退屈だった。
貧相とも裕福とも言えないごく普通の家で生まれ、普通に遊んだりして暮らしてきた。
遊びは、毎日幼なじみのマリカと戦争ごっこのようなものをしていた。
マリカは俺とずっと仲良くしてくれている友達であり、とても大切な存在なんだ。
義勇軍に入りたかった理由には、マリカを守ってやりたいというのもある。
けれど何日か前に、マリカも義勇軍に入ると言い出したんだ。
村の人を守りたいしケアンも入るから、というのが理由らしい。
なら俺はマリカよりもずっとずっと強くなって・・・
その時、独り言をさえぎるコンコン、というドアをノックする音がした。
「ケアン、入るぞ。」
ドアが開き、そこから見せた姿の男は、初対面では殺人犯とでも思うかのような
凶悪な感じの笑みを浮かべた男。
そう、この男こそが俺の言っていた義勇軍に入っている父親だ。
見た目は怖いが正義感だけは、はかりしれないものがある。
「どうしたの、父さん。」
ケアンと呼ばれた青年・・・ケアン・シードロックは、若干の期待をこめて返事を返した。
父さんとよばれた男、ウルグ・シードロックはケアンの期待どうりの言葉を発した。
「新しく俺たちの義勇軍に入る奴らに、義勇軍ってのはどういうものなのかと、次の作戦について本拠地で言っておきたいからな。」
普通は義勇軍がどういうものかを知っているから入るのでは?
普通の人ならそう考えるだろう。
しかし、ケアンにはそんな疑問は全くよぎらず、ただ目を輝かせている。
見たままの感じでは、ケアンの年齢はあと2、3歳くらいは幼く見えるだろう。
「支度を済ませたら本拠地まで来い。場所は・・・わかって当然だな。」
「うん、わかった!」
ウルグはそう言うとドアを閉めて、ひと足先に本拠地へと向かっていった。
残されたケアンは、興奮が止まないまま急いで、期待を膨らませながら行く支度をはじめた。
憧れの義勇軍は、長い長い殺戮と言う名の命のやり取りの始まりだという事も知らずに・・・
同時刻、海賊船「ネクロード号」の甲板にて・・・
その船は、見た目でいうといかにもと言わせるような立派な海賊船だ。
アメリカというどっかの国の「クロフネ」とかいう巨大な船くらいの大きさだろう。
その船の、深く広大な海が見える甲板で6人の船員たちが何やら話をしていた。
「おい、そいつはちょっとばかり無理な話なんじゃねぇの?だってあの場所はよ・・・。」
その内の1人が抗議の声を上げる。それをある男は「大丈夫だ!」と言って軽く受け流す。
どうもこれからの行く先について話しているようである。
「ダリス、まぁ不安なのはわかる。それに俺も不安だ。だがその不安を打ち破れるくらいの友情というチームワークが俺たちにはあるだろう!?俺は少なくとも今この瞬間こうして確信しているわけだ!だから安心してくれ!OK?いや、だめでも俺が絶対に説得してみせるさ!勇者が魔王を倒すのと同じくらいの挑戦心をもって!だから安心させると今この場で誓おう。・・・もしかしてまだ不安なのか?なら指きりをしよう。さぁみんな、小指を俺にかしてくれ!」
言葉に言い表せないほどのハイテンションな男は、他の船員を納得させようとしているようであるが、他人からみると、ただ単に1人で喋り狂っているようにも見れ取れる・・。
ダリスと呼ばれたその赤髪の男、ダリス・カラスは男のハイテンションぶりについていけてないようだ。他の船員も様々な反応を見せている。
笑いながらただ見守っている者、ダメだこりゃと頭を悩ませているもの、なぜか同感している者と、かなり心境にも違いがあるようである。少し違うように言えば、それぞれの船員が個性に溢れている言えるだろう。
その内の1人がニコニコと笑顔で、ハイテンションな男に近づいて小指をスッと差し出した。
その時の笑顔から見ると、どうやらからかってるわけではなく、真面目にさっきの話を信じているようだ。
「カリルがそこまで言うなら安心だね!私はカリルを信じてるよ?何たって船長だもんね!」
無邪気に笑顔で言う彼女に、ハイテンションな男であり、船長でもある男、
カリル・クライチャートは何を感じたのか、急に指きりの手をやめて、膝をがくっと落とす。
そして、なぜか若干の涙目で呟きはじめた。
「イネ、お前はこんなにも頼りないこの俺を信じてくれるというのか・・。これこそまさに感動だ!友情だ!お金にできない価値があるものとはまさにこの事だ、プライスレスだ!俺は今目的地なんかどうでもいい・・・ただ、今この瞬間の感動と友情を味わっていたい!永遠にだ!この地球が滅びるまで・・いや、銀河が滅びるまでだ!」
「それじゃ、船長や俺たちも死んでますがね。」
1人の船員がとっさにツッコミを入れる。それ以前にここに船員以外の人物がいたら、
カリルのような人物が船長であることがまず不思議に思うだろう。
イネとよばれた少女の方もそれはそれで不思議にも思える。
どれだけ素直で真に受ける奴なんだ、と他の人はおそらく思っただろう。
と言うよりも、このカリルについて行こうと思ったここにいる船員全員が変わっていると言えるだろう。
さっきの船員のツッコミを聞いたカリルははっとし、大げさに頭を抱えてみせる。
「そうだった・・!銀河が滅びてしまったら感動も友情もわかち合えなくなるじゃないか!一体どこのどいつだ!銀河が滅ぶまでとか言い出した野郎は!・・・俺だ・・!!俺自身か!つまり俺は今感じていた感動や友情を消してしまおうとしていったことか!?仲間も、世界も全て?クソッ!俺はなんて奴なんだ・・ああ、そんな大切な仲間を消すなんて事は誰にもしちゃいけないことで・・・俺は今それを望んでいたわけで・・・あああああああああああああああああああ畜生畜生このクソ野郎がああっ!!!」
あまりにも唐突すぎてなおかつおかしすぎる反応。
しかし、ここにいる船員たちはそんなものはまるで見慣れているかのように受け流している。
普通の人が見たら、最初の方のハイテンションでも逃げ出す可能性があるのに、今の唐突な変化はもはや気が狂いすぎてヤバくなったのでは、とでも思うところだろう。
実際、ヤバくなっているという点は的外れではないのだが。
そのカリルの暴走をある船員がなだめたおかげで何とか収まった。
その船員は笑顔で、けれども冷静に、話をもとの本題へと戻す。
「話が多少・・いや、かなりずれましたが、本題に戻しましょう。」
助かった、と言わんばかりに他の船員たちが安堵の表情を見せる。
見た感じで、この本題へもどした船員の男は、この船でのまとめ役といったところだろう。
眼帯をしているのでやや熱血派な印象を受けるが、
知的な喋り方と冷静な判断がそれを否定しているようだ。
「私はカリルの意見に賛成ですね。他にいくあても特にありませんし、あの島の連中には少しばかり借りがありますからね。」
眼帯の男がそう意見したのを聞いて、ダリスはカリルを一発殴ってから眼帯の男に向き直る。
「でもよ、あそこの島の連中はやばい戦闘力だってのを知ってるだろ?実際、1年前に俺らに戦いをふっかけてきて俺ら以外の船員はほとんど死にかけたじゃねぇかよ。しかも連行されて艦のお偉いさんに会ってやろうと思ったら、まさかの艦長が20くらいの女。まったく意味わかんねぇ事だらけだ。どうなってんだよあの島はよ。・・・エクセル、あの島の名前はお前覚えてるか?」
眼帯の男、エクセルはダリスに問いかけられると、軽く笑みを浮かべ、そしてまた真剣な表情へもどっていった。
その顔には若干の怒りや憎しみを入り混ぜたような複雑な表情があり、
少なくとも先ほどの笑顔は完全に消えうせている。
「忘れもしませんよ・・・私たちに敗北を味あわせるような奴らは滅多にいませんからね。あの島、いや、あの島と言う艦の名前は・・・」
まわりが真剣な雰囲気になっている中、エクセルはその忌まわしき島の名前を呟いた。
「メディオン島・・・。」
彼らもまだ知らなかった。
自分たちが戦乱と言うボードゲームに既に放り込まれていたという事に。
そして、もうルーレットが回り始めていたという事に・・・・
今回の第1章は登場人物の紹介として、まずはケアンと、ネクロード号の海賊たちを描いたストーリーにしました。特に今回は海賊たちが主です。
次回はケアンの話の続きと、最後にエクセルが言っていたメディオン島について書きたいと思います。
では、また次回お会いすることができればうれしいです。