閑話
今回はルイ視点の初訓練の様子です。
俺の名前はルイ・ラテース。騎士団長をしている。
今日は、昨日召喚された勇者に剣の訓練を教えることになった。俺と一緒にリエレストの奴も訓練するそうだが、実はあまり興味がない。勇者たちは皆15歳らしいが、俺が本気で指導したいと思う奴はいないだろう。
「今日からお前たちの剣の指導をすることになったルイ・ラテースだ。騎士団長をしている。で、俺の隣に居るのは近衛騎士団長の」
「リエレスト・オルデン」
「この二人でお前たちに剣を教えていく! 俺たちを超えられるようにしっかりと訓練しろよ!」
今俺は勇者の前で自己紹介している。そして、こいつら一人一人に訓練用の剣を持たせて素振りをさせる。そして俺たちでダメ出しして教えていくやり方だ。
案の定というか、皆ド素人で全くうまく振ることが出来なかった。だけど、残り一人となったときに、そいつがとても綺麗な素振りをしていた。
「なあ、お前、元の世界で剣をやっていたのか?」
そいつの剣がとても綺麗だったので、思わず聞いてしまった。
「いえ、剣を持つのは今日が初めてです」
すると、信じられないことを言った。初めてでここまで綺麗な素振りをしたというのか? とてもそうには見えないぞ。
「そうなのか? お前の素振りは綺麗すぎて言う事がねえんだよ。名前教えてもらってもいいか?」
そう、こいつの素振りには俺たちが言う事が何もないんだよ。で、名前が気になって聞いてみたんだが、その瞬間に、俺の後ろからかなりの数の嫉妬と殺気が飛んできた。それでもこいつは全く気にせずに素振りを止めて挨拶してきた。
「俺の名前はコウ・セイランです。よろしくお願いします」
軽くお辞儀しながら挨拶してきた。その動きに見ほれそうになったが、それ以上にこいつの名前について驚いた。
「貴方は王女様から無能と言われていて、城にいる貴族も貴方を消そうとしてる」
俺はリエレストのこの言動に驚いた。こいつは基本的に無表情で、他人の事など興味ないといった感じなのだが、そんな彼女がコウに忠告したのだ、驚かない方がおかしい。だが、コウはさほど気にしてないのか、少し考えるような表情をしただけだ。それだけ自身の力に自信があるのか?
「ん? そういや、お前の素振りのほうがほかの奴らより若干速くなかったか?」
そう、そんな気がするのだ。最初に少ししか見てないから分からんが。
「気のせいじゃないですか? それより、二人は何か剣を使いながら魔法を使う事って出来るんですか?」
そうか? まあ、いいか。それより剣をを使いながら使用する魔法?それって、[魔纏]の事だろうか?
「ああ、[魔纏]のことか?」
「[魔纏]?」
ああ、なんだ、知らないのか。俺がそのことについて説明しようとすると、
「[魔纏]って言うのは剣に魔力を纏わせて切れ味や耐久を上げたり、自身の持つ魔法属性を纏わせて攻撃するスキルのこと」
リエレストが説明した。随分とコウの事を気に入っているようだ。そうじゃなきゃこいつはここまで積極的に話さないからな。
そんなことを考えながらコウを見てると、剣に魔力を纏わせ始めた。
「おいおい、何してんだよ? コウ」
「いえ、出来ないかと思いやってみたんですが、難しいですね。なかなかうまくできないです」
疑問に思って聞いてみたが、まさか[魔纏]を試していたとは、それも、ある程度形になっているのだ。
そう思っていた次の瞬間、コウの持っていた剣に白色の刃が出来た。
「まじかよ、成功させやがった......」
「まさか、成功するとは思わなかった」
思わずつぶやいてしまったが、リエレストも驚いて、俺と同様にコウの剣を見つめていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫だ。というか、お前凄いな。[魔纏]について説明しただけで使えるようになるとは」
「そう、普通は数か月練習してやっと出来る事」
コウの声が掛かって正気に戻り、思わずと言った感じで声に出すと、リエレストも肯定してから、このスキルを取得するのがどれくらい掛かるか呟いていた。
その後、コウは気にすることなく素振りをし始めたが、俺たちもこいつを見るのが最後だったので、こいつの素振りを見ながら話をし、訓練の時間を終わらせた。
コウたち勇者がいなくなった訓練場で、俺とリエレストだけが残っていた。
「なあ、気付いたか? あいつに向けられる嫉妬と殺意」
「もちろん気付いた。彼はこの城の貴族も敵なのに、味方であるはずの勇者も敵かもしれない」
そうなのだ、俺たちがコウと話しているとき、物凄い嫉妬と殺気が飛んできたのだ。特に、コウが[魔纏]を成功させたときの殺気は凄いものだった。あいつには敵が多すぎる。
「俺はあいつを出来るだけサポートするつもりだ」
「私も、そうする」
俺の提案を受け入れて、リエレストもコウのサポートをするらしい。こいつはコウを相当気に入っているようだ。
「なあ、なんでコウをそこまで気にかけてるんだ?」
「それはあなたも同じ」
いつもの無表情が若干赤くなっているが、これはもしかしたらコウの事が好きなんじゃないのか?
俺がニヤニヤしながら見ていたのに気付いたのか顔を赤くしながら訓練場を速足で出ていく。
これは面白いことになりそうだ。安心しろよコウ。お前の事は俺たちが守ってやるからよ。
俺はそんなことを考えながら訓練場を後にした。