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人生は一番美しい童話である(98)
誰かはそっと近づき、セリーヌをじっと見下ろした。涙で霞んだ目と逆行のせいで顔が見えない。そこでまた気づく。計画されていたことなのだと。
とんだ誕生日になってしまった。
セリーヌは泣き笑いを浮かべ、首を横に振ろうとして、痺れ薬のことを思い出した。
「こんにちわ、セリーヌ」
声の調子からするに機嫌は悪くないらしい。
「…こちらが挨拶しているのに、何も言わないとは悪い子だね」
そう言って彼は彼女の横っ腹を思いきり蹴った。声にならない悲鳴が彼女の体を貫く。挨拶したくても声が発っせないのだ。なのに理不尽にも、彼の蹴りは止まらない。
「悪い子だね、悪い子だ。そういう子にはお仕置きをしなくちゃいけない」
彼は蹴るのを止め、しゃがみこむ。そしてセリーヌの身体をゆっくりと撫でた。ひんやりと冷たい指先が、身体の上を走る。鳥肌が走る。恐怖が頭をよぎる。
「大丈夫、安心して。怖いことなんて何もないから。最後に待ってるのは快楽だけだよ」
優しくそう言って、彼は彼女の身体に覆い被さった。




