人生は一番美しい童話である(97)
あの日も今日と同じように星空が綺麗な日だった。
そしてあの日も今日と同じようにセリーヌは独りだった。
1つ違うことと言えば。
初めて獲物を自ら探し、殺さなければならない日だった。
セリーヌは過信していた。自分の獲物を見つける目を。ナイフの腕を。本心を隠す術を。隠密の様に暗闇に紛れ、誰にも気づかれず獲物を見つけ、死に至らしめることができると。信じて疑わなかった。
15歳の夜。
その日は彼女の運命の日だった。実際は、運命とは正反対の道を歩まざるを得なくなる日だったのだが。
月明かりが海岸への道を照らす。もしもその時に彼女がその誘惑に負けなかったら。結果は違っていて、今も彼女は普通の人間として犯罪者を捕まえていたかも知れなかった。
砂浜でキラキラと輝くそれが彼女の運命を変えた。
一目散に走り寄り、彼女は拾い上げた。見たことのない形の、見たことのないものが詰まった瓶。砂浜に座り込み中身をひっくり返す。星より一層美しく輝く硝子玉が数個、転がり落ちた。スラム街の近くで育った彼女にとって、そんな風に美しいものは見たことがなかった。15歳の少女がそんなものに心を奪われるなんて、誰が思っただろう。実際、セリーヌでさえ瓶から出すまで思っていなかった。その魅力に見とれて、周囲への警戒を怠るなど。
気づいたときには頭痛と共に、冷たい床に転がっていた。ボロ屋なのだろうか。壁の所々から光が漏れだし、床に散らばる硝子玉と自らの肌を白く照らしていた。手を伸ばしてそれをとろうとして、自らの手が鎖で縛り上げられていることに気づく。悲鳴をあげようとして、自らの口に猿轡が巻かれていることに気づく。そして同時に、自らに痺れ薬が盛られていることに気づく。
全てが遅すぎた。気づくのが、遅すぎたのだ。
床がギシギシと振動して、誰かの訪れを告げる。裸体を隠すものは何もない。全てを照らされたまま、彼女は暗闇を凝視した。
そして気づく。
明かりが自らにしか注がないようになっていたことに。