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人生は一番美しい童話である(96)
家につくまで皆、何も話さなかった。家についても「おやすみなさい」の一言だけが木霊のように交わされただけだった。
各々が思いを抱え、夜を迎える。静かに空を覆う星空のベールだけが皆の思いを抱え込むように、ただ広がっていた。
アルバートはマーリンのことを。
ルーカスはセリーヌのことを。
トットはアリーのことを。
アリーは彼と過ごした過去を。
そして、セリーヌは自らが能力に目覚めてしまった、あの夜を。静かに独り、枕を濡らしながら考える。
この能力を得るべきだったのか。奪われた代価は、能力に比例しているのか。
今回の戦闘で彼女は嫌でも知ることになったのだ。この能力の限界を。叶わないものがあると。脳から情報を得るのではなく、目から情報を得ることの難しさを。
もしも眼鏡をかけていたら? その人が眼鏡をしていない時に見たものが重要なものだったら? きっとそれはボヤけていて何の役にも立たない。
中途半端すぎる能力だった。彼女の払った代償は大きすぎるというのに。




