人生は一番美しい童話である(95)
「…もうやめてあげてよ、アルバート。
気になってるのは、私たちだって一緒なんだ。口に出さないだけで」
ルーカスがじっと、アルバートを見つめた。その目には"あなたの気持ちもわかるけど"と書かれているようだった。セリーヌは全然私にはわからないけどね、と心のなかで思う。
「自分の秘密も明かさず、他人の秘密だけ明かそうと脅しをかけるなんて。貴方、人としてどうかしてるわ」
いきなりアリーが怒鳴った。
「私にも恥ずかしい過去とか辛い過去はある。この能力だって、何もなかったら得られなかった! 貴方だって、その能力。どうやって得たのか話そうとしたって、話せない筈でしょ」
そんな底意地の悪い能力。
そう呟いてアリーはそっぽを向く。
「…そう言われれば否定はできない。
いつか話すつもりなんだ、セリーヌ。わかってくれ。私も話せるなら全部話して楽になりたいよ」
アルバートがぎゅっと死体を抱き締めた。まるで温もりを分け与えるかのように。そんなことをしても、生き返ることは2度とないというのに。殺したのは、自分だというのに。
「…1番辛いのはアルバートなんだよ、セリーヌ。わかってあげて欲しいな」
トットがおずおずとセリーヌの手をとりながら言った。グッと握られたその手は少しだけ、震えていた。
「…約束だ、アルバート。絶対にこの事は聞き出す。今じゃないそのときに。私の2つ名に賭けて。約束だ」
こくりと頷いてアルバートは立ち上がった。そっとマーリンを横たえながら。
そして一歩ずつセリーヌに歩み寄り、そっと抱き締めた。先程まで死体にそうしていたように。洋服に染み付いてしまった血を、分け与えるように。優しく、そして力強く。
「約束しよう、セリーヌ。私と彼女の2つ名に賭けて」