人生は一番美しい童話である(93)
その言葉を最後に、アルバートは微動だにしなかった。瞳の中にマーリンの姿を捕らえ、そして、ゆっくりとセリーヌへと振り向く。
「…憎いか? セリーヌ」
「何、馬鹿なことを言っている。そんな当たり前のこと聞いて、何になる?」
セリーヌがせせら笑う。
「…そうだよな、そうだ。当たり前だ。例え彼女が…いや。何でもない」
「何が言いたい」
「気にするな、セリーヌ」
「意味がわからない! 答えろ、アルバート!」
「…気にするな、と言ったのが聞こえなかったのか?」
アルバートがそっと目を伏せてセリーヌに言った。微かに睫毛が震えている。きっと次、彼が私を見つめるとき。それは敵意のある眼差しに違いない。なぜなら。倒れているマーリンに向けられている眼差しを、セリーヌは知らない。
「…どうして彼女をそんな目で見る。そいつはお前の何なんだ」
「言う気はない。今はまだ」
「じゃあ、そいつにとってのお前は何
だ」
「それは私にもはっきりとはわからない」
「…何なら答えてくれるんだ、アルバート」
私達は家族だろう。
そう呟く彼女の瞳から一粒、涙がこぼれた。
「家族でも言えない秘密はあるだろう?」
アルバートがそっと目を上げた。