人生は一番美しい童話である(92)
「そこまでにしなさい」
その場の雰囲気に不釣り合いなほど、優しさに道溢れた声が響いた。合わせた両の手から推測するに、アルバートが手を叩いて彼女の注意をそらしたらしい。
「…アルバート」
そう呟いて駆け寄る。
その様子を3人はじっと見つめていた。否。見つめていることしか出来なかった。
「…お前は美しい。いつになっても若々しく、気品に満ちている」
そう言ってアルバートが彼女の髪を撫でた。背中の中程まで続く髪を毛先まで、丁寧に。
「だからこそ、この世には不釣り合いだ」
その言葉とほぼ同時に。
赤いドレスが裂け、鋭い切っ先が覗いた。
「…昔も、そう言ったわね、アルバート」
膝からゆっくりとマーリンが崩れ落ちる。胸に刺さった剣がそうさせたのではなく。
彼女の腰に当てられたアルバートの手が、そうさせていた。
「あの時、殺しておくべきだった」
「言うと思ったわ…貴方のことだから」
「こんな古びた場所でなんて」
「いいのよ…私には…このくらいがお似合いなの」
「いつも助けられない」
「そう言って…貴方は…いつも泣くわ」
「どうして今さら、こんな」
「…それは…仕方のない…ことじゃない」
「マーリン、すまない」
「…きっと私の人生の…中で…最悪の…幸福な間違い…は…貴方と出逢った…こと…よ…アル」
ふふふ、と笑ってマーリンはセリーヌを見つめる。
「…あな…たのお父さ…ま…敵を殺…して…泣いてる…わ…よ」
呆れた人。
そう呟こうと漏れでた吐息と同時に彼女の手がアルバートの肩を滑って落ちた。
「…説明してくれ、アルバート」
セリーヌが彼を見つめる。
「少し難しい話だ」
そう言ってアルバートは目を伏せた。