9/133
人生は一番美しい童話である(9)
屋敷まで近づくと、玄関先で仁王立ちする男が見えた。ルーカスは大きくため息をつき、セリーヌは目を合わせないようにと下を向きながら走る。
「セリーヌ、ルーカス。朝食の時間は何時だったかな?」
いつもは微笑みを湛えている目が、今日はほんの少し開いているような気がした。完全に開いてしまったらアウトだ。
「6時きっかりです、旦那様」
「…セリーヌ」
「…ごめんなさい、アルバート」
「2人とも何をしていたんだね」
「私はランニングしながら獲物を探していた」
「私はお嬢が遅いから心配で」
「なるほどな」
そういうとアルバートと呼ばれた老人は下を向いた。彼の思考だけはセリーヌにも読めなかった。否、読みたくないといった方が良いのだろうか。
がばっと頭をあげて彼はセリーヌとルーカスを見つめる。
「パパがどれだけ朝御飯をみんなで食べる時間大事にしてるか、わかるよね?!」
そう叫びながら2人を抱き締めるアルバート。
齢63にしては、少々娘と執事への愛が強すぎるのが問題だった。