89/133
人生は一番美しい童話である(89)
隣の部屋ではどたばたと激しい音がしている。
セリーヌは自らの両手足があるのを確認して立ち上がった。体重が両足にかかり、彼女は少しよろめいて膝をつく。勢いよく膝を打ったせいで息が止まった。両手を床について冷たさを感じながら息を整える。
よし、現実だ。
何を根拠にそう思ったのか彼女にもわからない。しかし、これが彼女にとっての現実だった。
痛みこそが、彼女にとっての現実だった。
「よくも…アタシの大切な人達を苦しめたね」
アリーの震える声がする。その震えが恐怖から来るものか、怒りから来るものか。本人以外は誰も知らない。
「貴方には初めて会ったわ。それにみーんな私の殺した人は独身よ? 子どもはいるはずないし」
そこまで言って、マーリンは顔をあげた。
口を半開きにして、アリーを見つめる。それから嬉しそうににっこりと笑った。
「貴方、女じゃないのね!」
よく見るとそうねと呟きつつ、アリーの周りをぐるぐる歩き回っている。
「そっか…見落としていたわ。同性の恋人なら、見つけられるはずがないわよね。
だってそれって、少し可笑しいもの」