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君の夢で僕は旅をする  作者: 染樹茜
人生は一番美しい童話である
88/133

人生は一番美しい童話である(88)

「…ルーカ、ス?」


「馬鹿野郎! 気をしっか持て!」


「わたしは…何を」


 ゆっくりと前を見るセリーヌ。目の前のぼやけた人影が、段々と形を作り上げる。


「皆、無事だったか」


「貴女がこんな状態じゃ、アタシ達が無事だって、意味がない!」


「…こんな……状態?」


 その言葉に、彼女は自らの身体を見下ろした。


 そこにあるはずのものが、ことごとく欠如した身体。それは美しいほどの楕円を描き、椅子に埋まっている。


「…そん、な」


 確かめようと腕を動かそうともがき、本当に何もなくなってしまったことに気づいた。バランスを失った身体は、卵の様に揺れて転がり落ちる。


 身体に強い衝撃が走る。冷たい床が身に凍みる。


 そこでまた強い衝撃が、頬に走った。


 目を開ける(・・・・・)が暗闇のまま。


 どういうことなのか、彼女には全くわからなかった。今が夢なのか現実なのか、理解することすら、不可能だった。


 先程までのは夢? じゃあこれは、現実? でも今が夢で、さっきまでが現実で。もしも、夢だとしたら。何を意図した映像なんだ。


 頭が痛くなる。ギリギリと締め付けられるような感覚が頭から、首、そして全身に回る。ぐるぐると世界も廻る。


 不意にそれがやんだ。


 そして目の前が明るくなる。


「…お前は本物か」


 セリーヌは声を絞り出した。


 ルーカスが彼女を抱き締める。そこには確かに温もりがあった。


「大丈夫だよ、お嬢。みんな助けてに来た。遅くなってごめんなさい。無事でよかった」


 握りしめた拳に温かい水滴がポタポタと落ちる。誰のかわからないそれは、手の甲を伝って地面に跡を残した。

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