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人生は一番美しい童話である(87)
「助けに来たぞ! セリーヌ」
いきなり飛び込んできた声に、セリーヌは身体を震わせた。
「…トット!」
「無事なのね?! セリーヌ!」
「アリー」
「探したぞ、セリーヌ」
「…アルバート」
「世話のかかるお嬢様だわ」
「…ルーカス」
彼女は彼らの声に1つずつ名前を呼び答える。震える声が彼女の心情を嫌と言うほど物語っていた。
「…やっときたのね」
マーリンの声がして、数秒後。
呻き声とともになにかが倒れる音がした。
何も聞こえない。
誰も話さない。
誰も。
いないのか。
セリーヌは叫ぼうとして、息を止める。
首筋を伝う、冷たい指先。尖った爪の感触。額に当たる息遣い。
全身が助けを求めて震えた。そして諦めて止まる。また震える。
何もかもが冷たかった。
「…ぬ……りーぬ………セリーヌ! しっかりしろ!」
その言葉と共に頬が鋭く痛んだ。




