人生は一番美しい童話である(85)
目を開けると暗闇が待っていた。動かない両手足。身体も固定されている。服越しに感じる冷たさが椅子に縛り付けられていることを物語っていた。
「お目覚めね、可愛い私のお嬢様」
マーリンの声が響くが、その姿は見えない。暗闇のせいではなかった。その時彼女は初めて、自らの両目が何かで塞がれていることに気づく。
「今、貴女の目には私の友人の最新技術が詰め込まれた映写機がついているの。
そして、今から貴女に見せるのは私と貴女達の物語」
「どういうことだ。何故、お前が私に関係している。あなた達、とはなんだ。誰が含まれるんだ。そしてなぜお前には視力がない。しっかり説明しろ」
高らかにマーリンは笑う。しかしその声は霞んで消えた。
「…本当に彼は貴女に話していないのね」
「何の話だ!」
「見ればわかるわ、可愛い私のお嬢様」
セリーヌは息を止めて彼女の次の言葉を待つ。しかし、彼女はそれ以上何も言わず、歩き続けているらしい。足音しか聞こえない彼女には何もわからなかったが。
静寂が彼女を包む。むしろ、包み込むのはそれだけだ。時折、ジジッと電子音が目元から響く。映写機と言っていたが、どこに何を写すのか、何をどこに写すのか。その双方がセリーヌには謎のままだ。




