人生は一番美しい童話である(84)
ふふふと笑ってマーリンはセリーヌから離れ、右足を斜め前に出す。そして身体をゆっくりと捻り、くるりと回った。赤いドレスが円を描くように広がる。途端にセリーヌは目眩に襲われた。
何が起きたというんだ、そう言いたくても言葉がでない。油断しているからだ、と心の中で誰かが叫んだ。
「私のドレス特注なの。
それから私の体も。
昔から毒を盛られ続けたから、私にはどんな毒も効かない」
彼女は笑う。その微笑みは愛しい子供を見る母親のようだった。
「…歪んだ愛情だな」
セリーヌは呟いて息を止める。そんな彼女にマーリンは蹴りを飛ばす。避けきれずにセリーヌはそれを受け、止めていた息を吐き出した。
息が詰まる。目の前が白く霞む。
「歪んでなんかいないわ。これも1種の表現の仕方よ。この国には言論の自由が与えられてるでしょ? それと同じ」
また彼女は笑ってセリーヌの方へと一歩踏み出す。
しゃがみこんだ彼女からすれば、マーリンは迫り来る恐怖でしかなかった。
目をあわせろ、とセリーヌは心の中で叫ぶ。目をあわせてくれさえすれば、お前の最期が視えるというのに。
「そろそろ眠りなさい、セリーヌちゃん」
目を伏せながらマーリンは言う。
「私の目を見たって貴女には何も見えないわ」
「…なぜそう言える」
「だって」
そこで彼女は悲しそうに笑った。
「この瞳は偽物。
遠い昔、愛する人に奪われてしまったから」
そこでセリーヌの意識は飛んだ。
こんな時にだけ予想が当たるのも微妙な心境だな、なんて思いながら。