人生は一番美しい童話である(83)
ポカンとした顔のセリーヌにマーリンと名乗った女は問いかける。
「貴女、アーサー王伝説を知らないの?」
セリーヌは首を横に振り、傾げた。さも、友人と話しているかのように。彼女の姿をまじまじと見つめる。黒い髪に黒いロングスカート。しかし、あの面影はどこにもない。
「ある町に剣の刺さった岩があって、それを抜くことができる人間がいたら、その人こそが王になるに相応しいって話。子どもだった彼が抜いて、本当に王になってって。かなり有名な話なのに」
彼女は呆れ顔でセリーヌを見つめる。何がなんだかわからず、セリーヌは固まっていた。
「…まあ、話は進めるはね。昔からある童話よ。
あれってほんとにアーサーが王にふさわしいから剣を抜けた訳じゃないのよ。初代マーリンのお眼鏡に叶うか叶わないか、の話。あそこの町は年老いた騎士とか汚ならしいのしかいなかったからね。
アーサーはまだマシな顔だったらしいけど。
それと私も一緒。
選んだ人が最も美しい状態を保てるように、殺すの」
彼女はそう言って、セリーヌの顎を撫でる。まるで愛猫の喉を掻く様に。
「人生は童話のようなものよ。選ばれるべき人間が主人公になる。私はそれを選ぶ役目。
素敵な骨格ね。それに綺麗な髪。私、女の子でもイけるのよ。
こんなこと続けないで、私のものになれば? 幸せになれるわ」
「お前に殺されるのにか?」
「ちがうわ!
私はこの汚い世界から美しいものを救済してるの。この世界にはもったいなさ過ぎるものたちをね。
例えば、貴女」




