人生は一番美しい童話である(78)
「まあ、見える未来は不完全と言うことだ。視た瞬間から少しずつ変わってくる。それは1秒より短い単位での変化だが」
「なんとなく…なんとなくわかる気がするよ」
トットが扉の向こうで呟いた。自信がないのか、とても小さい声だったが。
「…実際、今日あった女性からは何も得られなかった。本当に、何も、だ。
こんなことは能力を得てから恥じめてだ。だから私にも理解できていない。
だから。もし。明日、彼女に会うことができたら。私はアリーを逃がして、挑戦する」
「…え」
「未知との遭遇だ。悪くはないだろう?」
だから。
そう呟いてセリーヌは立ち上がった。
「もしも、アリーがお前のところに戻って、暫くしても私が戻らなかったら」
カチャリと扉が開く。トットが顔を半分出した。その目は腫れていて。まるで殴られたあとみたいだな、とセリーヌは思った。
「トットの脚を頼りにしているから」
じゃあ、おやすみ。
そう言ってセリーヌはトットへと背を向け、自分の部屋へと向かう。
「セリーヌ!」
トットが叫んだ。
「オレ、みんなを守るから! 守れるくらい、強くなるから!」
「その為にはまず、牛乳飲めよ」
文句を言うトットを背に、セリーヌは笑いながら自分の部屋の扉を閉めた。




