人生は一番美しい童話である(77)
「お前は先走る傾向がある。その足は凄い。沢山のことに役に立つ。それと同時に命取りだ」
「…命取り? どうして」
「自分の力を過信するな、トット。足を切られてしまえば、お前はただの凡人になってしまう。
先走って敵の一陣に飛び込んでみろ。頭のいいやつらが集まっているところだ。お前の能力はすぐに見抜かれて、打開策を立てられる。たとえば、ワイヤーを張っておけばいい。高速で走るお前には見えたときには通りすぎているような、透明なワイヤーを」
「…セリーヌは、いいよね。能力がなくなって凡人にならない」
「私の能力は不完全だ」
「どういうこと?」
セリーヌは扉に背を預けて座り込んだ。気のせいかもしれない。だけどその向こうにトットの温もりを感じた。
「私にはこの先の10分間が見える。誰かの目を通して。そして、自分の目を通して。
でもその瞬間から、歯車は少しずつ擦れ始める。私が"視た"ことによって、その未来はほんの少し…ほんの少しずつ、変わってしまうことがある。
例えば私が死ぬ未来が見えたとしよう。そうしたら、そのまま同じ道を辿るか? 馬鹿でもない限り、いかにして回避するか考える。そしてそれは、私が視た10分には含まれないんだ。だってその未来では私は視ていないのだから」
沈黙が扉の向こうから返ってくる。少し難しい話をしてしまったか、と彼女は後悔した。