人生は一番美しい童話である(76)
命が宿ったときには、両親がいた。
生まれる前日、父親が消えた。
母親は1才の誕生日の前に消えた。
そして彼女の家族は、血の繋がりのない見ず知らずの男だけになった。
とはいっても、それを知ったのは10歳の誕生日だった。
それまで兄弟同然に育った男の子がいた。名前までは覚えていない。だけど、その子は優しかった。とてもとても、優しかった。いつも我が儘を言う彼女をいさめながらも、必ず願いを叶えてくれた。綺麗な銀髪を風に揺らしながら、いつも彼女を見つめていた。
そして10歳の誕生日。
彼女は彼の命を自ら終わらせた。
それが、セリーヌにとっての"大人になるためにやらなければならないこと"の1つだった。
父親を養父と認識し、兄弟を殺す。
普通ではないことが、彼女の普通だった。
それから彼女は誰とも関わることをやめた。
しばらくして歳の変わらない召し使いが来た。彼女の名前はルーカスと言った。少し大人びた彼女はセリーヌとは一線を引き、しかし寄り添うようにいつも側にいた。
彼女が父親…アルバートの仕事を手伝うときも。家で肉を捌くときも。その感触を夢で見て、呻いているときも。
そして、彼女が能力に目覚めたあの日も。