人生は一番美しい童話である(74)
「…見苦しいところを見せてすまない、アリー」
「確かにあれはやりすぎね」
アリーがにこにこと答える。
「でも、トットを危険にさらさないためでしょ?」
「…」
「それくらいわかるわ。昨日今日と一緒に過ごしたのよ? あの子、小さいくせに自我が強いから。先走るところがあるもの。一番危ないタイプよね、戦場において。相手の技量を見誤って突っ込んで行って、自滅するタイプ。更に酷いことに足が早いから、もろそれね。味方も気づかないうちに突っ込んで、それで死ぬ」
「まあ、そんな感じはしていたが。トット君はそこまで先走りタイプなのか」
「…あいつ、家族を守れなかったのは自分が一歩踏み出せなかったからだって思ってるの」
「家族を?」
「そう。あの子の家族…両親と兄弟、合わせて4人。目の前で殺されたのよ。まだ小さかったあの子は押し入れの中の段ボールに隠れて、その中から全て見ていたのよ。そこから飛び出したって小さいあの子に何かできたわけないのに。それでも悔やんでた。
一歩ふみだせたら。そしたら結果は違ってたかもしれないって。それであの子は能力に目覚めた」
静寂が部屋を包む。誰も何も言えなかった。
それぞれが、それぞれに。過去を抱えている。思い出したくない、辛い過去を。しかし、それがあるからこそ、こうして一同に介している。それがあるからこそ、特別な能力がある。
必要か、と聞かれたら。失いたいか、と聞かれたら。「いいえ」と答えたら嘘になる。何かを獲るには何かを失わなければならない。その典型的な例なのだ。
誰かを失い、得るものもあり。何かを失い、得るものもあり。揃いも揃って大切なものを無くした、欠落した人間なのだ。彼らは。