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人生は一番美しい童話である(71)
「そういえばおば様。今日のケーキは何かしら」
「ラズベリータルトとシフォンケーキとショートケーキ。あと、チョコタルトとガナッシュだよ」
「…ありがとう。見えなかったものだから」
ふふふと笑って彼女は扉をゆっくりと開く。そしてそのまま立ち去った。
「私たちにもそれを頂戴」
セリーヌがそう呟いて、店主の手元をじっとと見つめた。店主が箱に積める様子をじっと見つめる。綺麗に揃えて入れられたそれは、宝石箱のようだった。
店を出て3人は無言で歩く。セリーヌが何かを感じ取ったのは明らかだった。だけど、2人には全くわからなかった。
「…このケーキはお前にやる」
セリーヌがトーマスに箱を押し付ける。
「え! いらないのかい? てっきりまだお腹がすいているんだと」
「確かめたかっただけだ」
「…確かめたかった?」
「こちらの話だ。
さて、アリー、帰ろう」
セリーヌがアリーの手をぐいと引く。少し足を縺れさせてアリーが後に続く。
「ご馳走さま、トーマス。明日は来るなよ」
「…それって言葉の裏を読めば良い?」
「裏の裏を読んでくれ」
にっこりと笑ってセリーヌは呟いた。