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人生は一番美しい童話である(68)
「この辺りの店から手当たり次第いきましょうか」
アリーが呟いて扉を開ける。カランカランと小気味良い金の音が鳴った。
「あら、トーマス君にセリーヌさん。ご一緒にいらしたのね! そちらは」
「こんにちは、お姉さん。アリーと言うのよ。一緒に来るのは初めてね! ここのケーキはおいしいから連れてきたのよ」
セリーヌが他所行きの言葉遣いで話しかける。
「実はね、今、ある人を探しているの。とても綺麗な黒髪の女の人で、いつも黒いロングスカートを履いているんだけど」
「黒髪にロングスカート…もしかして、あの方かしら」
「思い当たるんですか?!」
アリーが身を乗り出すようにケーキの飾られたガラス台に手をつく。ガタンと音をたてて皿が揺れた。
「ええ。たまにケーキを買いに来るのよ。毎週木曜日あたりにね」
「…今日は木曜日だ」
「そうね、そろそろ来るかもしれないわ。わからないけれど。不定期だから」




