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人生は一番美しい童話である(66)
「そういえばよう。こないだおもしれえもん見たんだよ」
奥の方で土方職人達が卓を囲んでいた。
「すんげえ綺麗なお嬢さんがよ、男を肩に担いで歩いててな。大丈夫かって聞いたんだが、酔っぱらって眠っているのよって言っててよ。でも、眠ってるやつをさ、路地裏に運ぶかね」
アリーが椅子を倒しながら勢いよく立ち上がった。
「おい、そこの小僧。今の話、聞かせろ」
地の底から響くような声でアリーが怒鳴った。何事かと慌てて目を腫らしたマスターが出てくる。
「え…姉ちゃん、その話って」
「その"おもしれえもん見た"話だよ」
美しい女性から発せられた低い声に驚いたのか、それとも、その気迫にただならぬものを感じてか。
土方職人はぼそぼそと話を始めた。
彼いわく、それは1週間程前の話であった。記憶力が乏しいせいで曖昧だけどな、と笑った彼の自虐はアリーによって一掃されたが。




